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【随想】イベント『佐藤雅彦 トークイベント 「作り方を作る」』

金曜の夜は、やはり疲れていて、万全ではなかった。
何よりまず、会場に辿り着けなくて焦る。
時間より早く駅についたはいいが、そこからナビが利かない。
駅がこう重層的になっていて、
Googleマップでは、自分が地上にいるのか地下にいるのか判別できないのだ。
駅構内の地図を見ても、なんだかさっぱり分からず
焦った末に
違うビルへと突っ込んでそこにいた守衛さんに道を尋ねる。
「ここに行きたいのですがどこでしょうか?」
にこやかな守衛さんはまさか違うビルの道案内を聞かれるとは
思ってもみなかったのだろう。
プチパニックになっていた。
「ええと、ああと、そうですね、今ここが、あのー、ええと」
もしかして知らないのに一生懸命答えようとしてくれてるのかもしれない。
まったく要領を得ない。
しまった。聞く人を間違えたか。
守衛さんにGoogleマップを見せてここに行きたいんだと伝える。
そして今この場所はここだと。
もはや外国で道を尋ねている時のようだ。
守衛さんは、聞かれた場所が分かると安堵したのだろうスマホを一生懸命のぞき込んでくる。
「ここがここでここですから、ここですね、ああここ、はいはい、もうちょっとこっち」
普段スマホで地図を見ることなんてないのだろう。
眼鏡をかけたり、手袋を外したりとさらにパニくっている。
こんなことをしている場合ではないのだが。
しかし、他に聞けそうな人もいない。
ああ、はいはい、ここね、5分くらいかけて守衛さんはようやく位置関係を把握したようだ。
場所の説明をしてくれる。
しかし、場所については最初から分かっているのだ。
こっちの質問も悪いのだが、そこまでの行き方が知りたいのだ。
「ここをまっすぐ行って、信号を右に行って突き当りのビルです」みたいな回答がほしかった。
「このビルがここで、行きたいビルがここですね、このビルが今見えているあのビルで」
守衛さんは、全然必要のない情報をたくさん教えてくれる。
時間が…時間が…と内心焦りながら、
守衛さんの親切を無下にするわけにはいかない。
話を全部ありがたく聞いて、最終的には行き方も分かった。
地下に降りずに、ビルの脇を通って信号を渡る、この扇形のビルがこれだから、たぶんその先にある。
お礼を言って守衛さんの元を離れた時にはすでに10分くらいが経っていた。
小走りで会場へ向かう。
なんとか会場へたどり着いた時には、ぐったりしていた。

佐藤雅彦さんは
どうしたら伝えられるか
どうしたら分かってもらえるか
をテーマに
すべての創作活動を行っているらしい。
CMはその一つだったし、それ以降のピタゴラスイッチやだんご三兄弟、書籍やIQのようなゲームソフトも、全部そういう考えで作っているとのこと。
なので、佐藤雅彦さんの表現活動は、
毎回「どうしたら」の部分、「作り方を作る」ことから始まる。
新しい作り方を作ってしまえば、必然的にできたものは新しいものになるのだそうだ。
それは確かにそうなのだが、毎回新しい作り方を作るってものすごく大変なことなんじゃないか…
そこからは、
佐藤雅彦さんが自作をどういう考えで作ってきたのかを1作品ずつ振り返っていった。
膨大な作品群と、それらに対し、一つ一つルールや構造があるのが驚きだった。
本当に作り方から作っているんだなーと感心した。
勿論、ミロのCMに出演した阿部サダヲだったり急に降りてきたIQのようなゲーム、街を歩いていたら聞こえてきた「~ったら、~」から発案したドンタコスなど、偶然の産物もあるのだが、
それにしても、御年70歳で自身の作品に対しこれだけ熱量もって語れるということは、やはり脅威に値する。
体調不良で登壇も危ぶまれたと言っていたのに、話しはじめると嬉々として軽口を叩いて会場の爆笑をかっさらったり、時間がなくなってからも話足りないというような感じでマシンガントークが止まらなかったりと、ただただエネルギーに圧倒された。
佐藤雅彦さんの全仕事を振りかえるには、時間が足りな過ぎた。
もっともっと話が聞きたかったなー。


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