【随想】短編アニメ『話の話』 ユーリー・ノルシュテイン
不思議なタイトル
形而上的な話を予感させる
灰色オオカミが来るぞと
子守歌
赤ちゃんが眠っている
みずみずしい青りんごの絵
スケッチ、実写エレメント、スチールコラージュの
異世界ハーモニー
時間と場所、空想と現実が
光の中で入り混じる
洗濯をしながら乳母車を押す女性
飼い牛と縄跳びに興じるおてんば娘
筆が進まず飼い猫に叱られる文筆家
一家の大黒柱である漁師
人々の生活、日常が活写される
強い風の日
窓が補強された山小屋にやってきた灰色オオカミ
住人は街へと出かけていったようだ
くしゃみをしても一人
枯れ葉の柔らかい音
複数の男女は街の夜に社交ダンスを踊る
雨のそぼ降る中、男は出兵していく
走り去る電車の灯りに照らされ
女たちは戦地の知らせを聞く
「あなたのご主人は勇敢に戦いました」
暖炉で暖まる灰色オオカミ
ジャガイモを拝借
口笛を吹きながら火に薪をくべ
ジャガイモの芽を取り除く
戦地から帰ってきた数少ない男たち
足のない男が奏でるアコーディオンの音色
「あなたのご主人は勇敢に戦いました」
灰色オオカミはほっくほくのジャガイモを堪能している
扉が開き、外から光が差し込む
通りすがりの旅人を
ちょっと食べていきなよと漁師が呼び止める
空に浮かぶ大魚を見上げる飼い猫
灰色オオカミは赤ん坊を見つける
飼い牛は疲れて眠り
漁師は網を持って夜の海へ出る
おてんば娘も文筆家も眠り
猫もろうそくの灯りを消して眠る
異世界へと迷い込んだ灰色オオカミは
文筆家の書いていた原稿をこっそり盗み出す
急いで森の中を逃げる灰色オオカミ
森を抜けて、街の車道へと出てきてしまった
その騒がしさに抱えていた原稿が泣きわめく
丸めた原稿の中にはなぜか赤ん坊がいて、灰色オオカミは必死にあやすのであった
「ねんねんころりよおころりよ」
森の中で雪と共に降り注ぐ青りんご
青りんごをついばむ烏と小人
飼い牛と女性は口論している
遊んでないでお手伝いしなさい
文筆家の周りに散らばる原稿の山
テクスチャーとディテールの往復書簡
灰色オオカミは、空想の産物なのか
文筆家の書く虚構なのか
赤ん坊をあやすただの子守歌か
空想の産物(灰色オオカミ)は、
現実の戦乱が生み出す闇の中で光のある方へと誘われる
扉をくぐり、現実へとやってきた灰色オオカミは文筆家の空想を奪っていく
闇の中でささやかなジャガイモで生きる孤独な灰色オオカミには、未来の光(空想の力)が必要だったのだ
しかし、その空想は一筋縄ではいかなかった
言うことも聞かない、言葉も通じないまるで赤ん坊のようだ
終盤、
灰色オオカミが雪の降る中木々を見上げ
小人が青りんごを烏たちとかじっている絵で終わる
これは空想の力で未来を救い、
新しい世界が生まれたということだろうか