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同人ゲーム制作の落とし穴n選【暴露】
扇情的なタイトルですみません。酩酊状態で何書こうか迷ってたらこのタイトルになりました。実際に記事を書く段になって頭抱えてます。誰だよこのタイトルにしたやつ。というか同人ゲーム制作自体がもう現実世界の落とし穴なんだよなぁ。暴露もなにもねえよ!
……ところで筆者は、サークル「アサノハ製作所」の代表としてノベルADV『廃遊園地のメメントメモリア』(廃メモ)を制作しました。廃メモが初めて頒布されたのが2023年の夏コミでのこと。そのあとすぐに同内容のSteam版もリリースしています。
その1年後、今年9月には、紆余曲折の末にPS4/Switch版を発売することとなりました。
同人ゲームサークルの中でも比較的珍しい体験をしているのかな?と思うので、そのあたりの事情を踏まえたうえで「こうしてよかった」や「こうすればよかった」という落とし穴の回避方法について考察できればと思います!
なお、この記事は「ADVゲ制クリエイターズ アドベントカレンダー2024」の一環として執筆されています。
開発の落とし穴
やってよかったこと①:発売時期を決める
数々の先人たちが指摘しているのでいまさら話題に上げるほどでもないですね。同人ゲームの開発では、シビアに予算とスケジュールが決まっている商業タイトルと違い、自由度高く開発期間を設定することができます。だから例えば「シナリオが終わったらイラストを着手して~、イラストが終わったらスクリプトで~」みたいにだらだら開発期間を延ばすこともできてしまうわけですよね。
しかし、締切がないと人間は動きません。
もちろん締切のストレスなくクリエイティブに専念できるのが同人ゲームのよさの一つでもあると思いますが、とりあえず作品を完成させるというのも同人ゲームサークルにとって非常に重要なマイルストーンだと思うんですよ。
ここが同人ゲームサークルのツラいところなんですが、ゲームが完成しないと基本的にイベントで頒布するものがないんですよ。グッズやフライヤー、体験版でごまかすにも限度があります。
また、1作開発するだけである程度経験値が溜まるというメリットもあります。作ってはじめて気づくことってありますしね。
で、そこで重要になるのが「発売時期」つまり締切の設定なわけです。
ここまでに間に合わせるぞ!と決意すれば、間に合う確率が上がります(必ず間に合うとは言っていない)。はっきりしたリリース時期があれば、その分メンバーのモチベーションや危機感も上がります。
コミケなどの即売会はその良い締切の一つでしょう。もっともコミケの場合、1回逃してしまうと次は半年後というシビアさもあるんですが!
ということで、新しく同人ゲームのサークルを立ち上げたい!という方には、基本的には「まず1作」手堅く作ることを目標にしてみるのをオススメしたいです。それぞれ事情が異なると思うので、十把一絡げには言えませんけどね。
◎あなたのサークル「アサノハ製作所」は 日曜日 西地区 “い” ブロック 36b に配置されています。
— アサノハ製作所@PS4版『廃メモ』予約受付中! (@asanoha_factory) June 9, 2023
C102通りました。
『廃遊園地のメメントメモリア』の製品版が出ます! pic.twitter.com/ASg85mEirV
やってよかったこと②:身近な人と作る
こーれありますねぇ。
アサノハ製作所は私のリアル友人に声をかけて結成しています。メインメンバーも4人と小規模なので、全体を見やすく、スムーズな開発にも役立ったと思います。
とはいえ「周囲に同人活動へ誘えるクリエイターの友人がいる」という条件はクソハードです。自分は運が良かっただけなので、再現性は乏しいかもしれません。
ただ、ディレクター(監督)ポジの人間が開発の全体を見ることができ、かつメンバー全員にゲームの完成像が共有されている――というのは非常に重要なポイントかと思います。同人に限った話じゃないですけどね。
やってよかったこと③:GitHubを使う
ノベルゲームの開発はプログラムの知識がそれほどいらないのが利点ではありますが、ゲームというソフトウェアの開発であることには間違いありません。
なのでGitHubでバージョン管理するのはオススメです。使い方はググってください(人任せ)。
……というか最近「ノベルゲームの開発はプログラムの知識がそれほどいらない」という言説を疑い始めてます。普通に最低限コンピュータのことわかってないと無理な気がします。
プログラミングとまでは行かなくとも、テキストファイルを正規表現でえいやこらとしたい場面とか出てくるわけです。でも今はChatGPTに訊けばだいたい解決するのでいい時代ですね。
落とし穴①:何も考えずにゲームエンジンを決める
これすぎ。何も考えずにゲームエンジンを決めてはいけません。
ひとくちにノベルゲームエンジンと言っても、ネット上に情報が多く調べやすいエンジン、汎用性が高いエンジン、とにかくプログラムの知識がいらないエンジンなど様々に存在しています。
そのなかで作る作品にいちばん合致したエンジンを選ぶのが基本ですが、出口戦略というか、「このゲームはこうする可能性もある」という観点も重要です。
例えばCS機に移植したいとか、翻訳を入れたい……ということになると、Unityなど一般のゲーム開発にも使われるエンジンが有力な候補となります。
一方、一本筋ノベルでPC版しか出さない!ということであれば、Unityでの開発は煩雑なだけかもしれません。ただしPC版のみの場合でも、Steamでのリリースを考えている場合は、採用しようとしているエンジンでSteam固有機能の組み込みが楽にできるかは調べた方が良いかもしれません!
落とし穴②:UIを軽視する
あ~~~、わかる。
ゲームのプレイ体験、あるいはゲームそのものにとってUIってけっこう本質的なんですよね。ノベルゲームで一番画面に表示されてる時間が長いのって、かわいい美少女でもかっちょいいテキストでもなくテキストウィンドウとか設定ボタンなんですよ。
なので、諸々の事情が許せばUIにはこだわりたいところ。スクショの見た目もよくなるし!
落とし穴③:オーディションを実施する
廃メモでは、CS版を開発するにあたりボイスのオーディションを実施しました。
そしたら延べ1000件の応募が来ました。そこまで来ると思ってなかった。
いや、嬉しい……嬉しいけども……!
見通しが甘く、審査体制が整っていませんでした。結果、力業でなんとかする始末。つまり「サークルメンバー4人で全部聞き、議論する」です。ハードコアだなぁ。
ここは効率的なやり方を考えるべきでしたね。ただ、廃メモの場合は結果的にぴったりの演者さんを見つけられたのでよかったです。
ちなみに、同人ゲームのCVオーディションについてはハナダさんの記事が詳しいです。
うちのオーディションはスタジオ収録前提だったので細部での違いはありますが、概ね記事のとおりだと思います。
しかし、ゲームにボイスをつける場合の選択肢はオーディションだけではありません。公開オーディションは広報の一種になるし、こちらが選ばせていただく側となるのである程度価格の相談がしやすいというメリットはありますが、上述のとおり自分たちで全部やらなければいけないというしんどさもあるわけです。
これを回避する一つの手は、多くの商業作品のように音響制作会社へボイス一式を依頼することです。音響制作会社さんは基本的に、キャスティングからスタジオの確保、レコーディングエンジニアの手配までしてくれます。費用はかかりますが断然楽だと思います……!
また、いわゆる同人声優さんにお願いするのもアリですね。こちらからベストな方を探し当てる必要はありますが、基本的に宅録で納品データを送ってくれるはず。同人ゲームへの親和性は高いと思います。
余談ですが、複数プラットフォーム(CS版など)での展開や全世界向け配信を考えている場合、ボイスの「転用料」という概念が存在する場合があるので気をつけてください! 特に、事務所所属の声優さんですね。
Googleで調べれば出てくる気もしますが、オープンな場で言及しにくい話題でもあるので、気になる制作者の方がいればDMなどください。スタジオの紹介とかもできるはず。
あ、あとスタ録は大変なので覚悟してくださいね!! マジで今年の年初は収録行った記憶しかない。
販売の落とし穴
やってよかったこと①:広報をしっかりする
当たり前のことですが、どんなに良いゲームでも、買っていただく第一歩はその作品を認知してもらうことです。特に新規立ち上げサークルならなおさら。
なので、サークルのアカウントで定期的な情報発信を行うことは意識していました。特に、「キービジュアルの露出回数を最大化する」ことは有意義だったと思います。
例えば同人マンガであれば、見本誌を手に取って何ページか見れば「見かけのクオリティの高さ」はある程度把握できるわけです。もちろん作品の真価は最後まで読まなければわからないでしょうが、内容に対する読み手による選別がなされやすい媒体と言えます。
一方で同人ノベルゲームの場合、見かけのクオリティの高さは9割キービジュアルに対する印象で決まります。即売会の場を想像すればわかりやすいですね。島中をじっくり見てくれる方は別として、通りすがりの参加者の目をいかに惹きいかに足を止めさせるかが鍵なわけです……!
で、そういうとき、「あ、どこかで見たことあるイラストだな」は強いんですよ。だからKVを擦って擦って擦りまくる。これはやってよかったです。まあ、広報の基本っちゃ基本なのかもしれませんけどね。
実際、イベントの場ではよく「Twitterで見たことあります」と声をかけていただきました。
ノベルゲーム『廃遊園地のメメントメモリア』を制作しています。
— アサノハ製作所@PS4版『廃メモ』予約受付中! (@asanoha_factory) June 10, 2023
目指すは新たな「泣きゲーの王道」。
壊れた世界の廃遊園地で、少年と少女が出会うことから物語は始まります。
製品版はC102/各種サイトで頒布予定。今は無料体験版が遊べます!https://t.co/LRsr1qAXDQ#スーパーゲ制デー #indiedev pic.twitter.com/ctLmdHq2Gw
やってよかったこと②:イベントに出る
アサノハ製作所では、廃メモPC版の開発からCS版の発売まで、以下のイベントに出展しました。
■2023年
・5月コミティア
・夏コミ
・9月コミティア
・デジゲー博
・冬コミ
■2024年
・TOKYO INDIE GAMES SUMMIT
・5月コミティア
・東京ゲームダンジョン外伝
・夏コミ
こう見るとけっこう出てますね~。
イベントは出展料こそかかりますが、出るだけで広報になるという説はあるのでおすすめです。同じ開発者さんとの人脈作りもできるし、たまに企業さんが来てくれたりもします。
廃メモのCS版も、夏コミのブースでパブリッシャーさんからご挨拶いただいたのが全てのきっかけです。
やってよかったこと③:敷物を作る
イベントに出るときは敷物を作りましょう。こういうやつです↓
設営完了しました!
— アサノハ製作所@PS4版『廃メモ』予約受付中! (@asanoha_factory) August 13, 2023
西2ホール【い-36b】でお待ちしております。新作『廃遊園地のメメントメモリア』、1000円です!
#C102 pic.twitter.com/DlDKmC5xdr
イベントって情報量が飽和してるので、実際通りすがりの方が見てくれるのって「色」とか「キャラの髪型」とかの超大雑把な印象だけだったりします。
なので、ポスターはもちろんですが、机を飾る敷物もあるといいです。もちろんKVを擦りまくる。
落とし穴①:パブリッシャー
同人ゲーム・インディーゲームのある種の出口戦略に、パブリッシャーとの契約があります。CS版を出したり翻訳版を全世界に展開するのは、個人開発者のみの力では「不可能ではないけれど極めて大変」というのが現状です。
特にCS版に関しては、あの商業ハードで自作が動かせるということで魅力に感じる開発者さんが多いはずです。自分もそうでした。
しかし、パブリッシャーと契約するということは同人ゲームをガッツリビジネスの俎上に載せるということでもあります。つまり、自分一人(あるいは制作メンバーだけで)決められる範囲が制限される欠点もあるんですよね。もちろん最近は開発者への理解があるのインディーゲームパブリッシャーさんも多く、やりやすいように配慮してくれるとは思うのですが、それでも「同人」というフィールドからはどうしても変わります。
制作の楽しさに収まらないままならないことも出てくるので注意したいです。
落とし穴②:Steam版の審査を舐める
あああああああ(検閲済み)。
Steamは色々大変なので覚悟して臨みましょう。物理版と同時リリースとか考えてるならなおさら!
要するにSteamには独自のレギュレーションがあり、それに対応することが求められるという話です。
Steamといえば日本語しかないノベルゲームってだいぶ売上げが厳しいという話もあったりしますが、まあ現状DL版ならSteamが一番訴求力あるような気はしますね~。
落とし穴③:パッケージ版は切らさない
同人ゲームサークルはゲームがないと頒布するものがない!という話は先述したとおりです。なので、一度ゲームを作ったらパッケージ版は切らさない方が良かったです。
アサノハ製作所の場合、「DL版もあるしパッケージ版そんなに持ってかなくていいだろw」でイベントに臨み、結果製品を欲しい方に届けられない事態が発生しました……。
もちろん作品の性質によるとは思いますが、旧作は思ったより売れると考えていいはずです。ブースの賑やかしという意味でも、パッケージ版は切らさず容易しておきましょう。
最後に
お互い作品作りがんばりましょ!
あと飲み会誘って!
書いた人:梁川ろんげ
シナリオライター、ゲームディレクター・プロデューサー。サークル「アサノハ製作所」代表。商業作品では『project canvas 〜ヰ世界情緒育成計画〜』など。
発売しましたー https://t.co/iWwtXvmjxE
— 梁川ろんげ (@longhairsan) August 28, 2024