とりあえず、むかし話
実家に帰り、ふと思い出したことがある。
子どもの頃、大好きだったむかし話のことだ。
かつてわが家には、日本と世界のむかし話がかかれた絵本セットが置いてあった。
四六判くらいの大きさで、絵本というより冊子といった感じの薄い本が、それぞれが30冊ほどのセットになっていたように思う。
なんだかパッとしないものだったが、お話は充実していて、ど定番からあまり聞き慣れない話まで、様々なお話を読めた記憶がある。
その中に1冊、気に入って持ち歩いていたむかし話があった。
ただ、幼い女の子だ。
すぐに気が散る。
花を見つけたり、お菓子に気を取られたり、誰かと遊んだりするうちに、気づくと大切なその本を無くしていた。
泣いた。しくしく泣いた。
すると、それを見た伯母が声をかけてくれた。
「ウチの子たちは読まないから、
無くしたお話の絵本を持っていっていいよ」
と。
いとこも同じセットを持っていたのだ。
目の前に、あのお話がある!
とはいえ、「そんなに簡単にもらっていいのか?」という気持ちがよぎった。
手を出さない姪に、伯母は
「このお話?」
と、白雪姫やシンデレラ、眠りの森の美女、鉢かつぎ姫などプリンセスのお話を出してくれる。
いや、違う。
ドレスを着て、誰かに幸せにしてもらう話なんて面白くない!
「こっち?」
幸福の王子、人魚姫、かぐや姫、雪女……
違う。
どんなに美しくても、報われない話なんていやだ!
「じゃあ、これだ!」
桃太郎、一寸法師、金太郎、アキレス神話…
いや、違う。
当然に強いものや正義が勝つ話に興味はない!
もう、何を出せばいいのかわからなくなっている伯母を見て、しかたなく手を出した。
「これだよ。」
そう、幼いわたしが一番好きなむかし話は
『わらしべ長者』
だった。
欲がなさそうなのに、物々交換で誰かを喜ばせたり助けたりして、最後は長者になる。
いい! すごくいい!!
と思い、何度も読んでいたのだ。
大人になった今でも「最高の展開」と思っているのだが、まわりの誰に話しても、なかなか同意を得られない……。
(むかし話はわらしべ長者派という方が
いれば、ご一報ください)
さて、この絵本だが、結局いただくことはできなかった。安易にもらうことを両親が許すわけもなく、結局、怒られてさらに泣いた。
その後、あのむかし話セットはいつの間にかすべてなくなった。
でも、お話はたくさん覚えていて、ときどき思い出して楽しんでいる。
そして、「やっぱりわらしべ長者の話のような展開がいいな〜」と思い続けている。
ただ、むかし話のような展開で長者にはなれそうもないので……
とりあえず、明日からまた働きまーす。