とりあえず、懲りない人々
新幹線で東北の玄関口に帰る。
夫も含め3人で帰るのは、コロナ禍以降はじめて。
というのも、父は、この世とあの世の崖っぷちに立ったことがある。
リスクを避けて全員で帰ることを控えてきたわけだが……
今は、まぁ、そんなことをする必要はなかったのではないかと思っている。
だって、あんなに身を削る原因となった酒をまだまだ飲み続けているのだから。
崖っぷちから戻って来た時は、
「じいちゃんと大叔父が酒盛りして呼んでいる」
と、白い顔で話していたのに、
今や
「ビール? そんなものは水だ。」
「店の水割りは薄い。」
と、赤ら顔で話している。
どーしようもない。
懲りないのである。
そんな父の酒以外の数少ない趣味が、野球だ。
シニアチームでのプレイが難しくなってからは、コーチや審判として携わり続けるくらい好きなのだ。
幼稚園の頃、湯船につかりながらセ・パ 12球団名を覚えさせられた思い出もある。
当然、テレビ番組の選択肢は野球中継一択だった。
おそらく、父はわたしにも野球をさせたかったのだと思う。
だか、残念ながら、わたしには運動のセンスがまったくなかった。それで「どうせうまくいかないだろう」と、試してみることもせず、観る専門になってしまった。
でも、ずっと思っていた。
自分でもカッコよくバットを振ってみたいな、と。
そうだ……
暖かい時期に帰ることができたら、
バッティングフォームを作ってもらおう……
握り方から教えてもらったが、添えるだけのはずの右手に力が入りまくるわ、腰は回らないわ、上半身はブレブレだわで、固定できるほどのフォームを作ることは叶わず……
「プロの選手はほんとにすごいんだな。もう、観戦中にあーだこーだ言いえないっっ」
と、猛省したのであった。
夕食の時間、テレビをつける。
もちろん、野球中継だ。
「えーーっ?! なんでそこでファーストのカバー誰もいないのーーっ?!」
猛省したはずなのに、懲りずにあーだこーだ言う娘。
その隣で、焼酎をあおる父。
とりあえず、懲りないヤツらなのだ。