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とりあえず、イキがる文学
「ゆめきゅう、ゆめきゅ〜」
廊下から鼻歌チックな声が漏れ聞こえる。
「夢野久作、借りてきたの?」
「っ!!
…… ……うん。
短編集とかを借りてきた」
リビングの扉を開けた瞬間、カウンターを食らったような表情でこたえる子ども。「まだ話していないのに、なんで借りてきた本の内容を知っている?!」の顔。
借りてきた作家を当てられて驚いているが、子は日本三大奇書『ドグラ・マグラ』で有名な夢野久作を借りてきたことを隠したかったのか……? いや、本当に隠したかったら黙るタイプだ。
きっと、頭のどこかに「夢野久作みたいな難解そうな本を読むんだ。なんかすごいね!」と言われたい気持ちがあったのだろう。
その打算が、廊下の鼻歌でダダ漏れている。
ザ・中学生!(ニヤニヤ)
こんなふうに、持っているとなんだかすごいような雰囲気を漂わせる本、認知度は高いのに難解そうな雰囲気を醸し出して一部のコアな人しか寄せ付けない本を、わたしは“イキがる本”と呼んでいる。
“イキがる本”は、小脇に抱えているだけで“ちょっとまわりとは違う自分”をアピールできる。そして8割方、抱えているだけで読まない(もしくは読めない)……
「もう読んだの? 面白いやつあった?
(どうせ読んでないはず。ニヤニヤ)」
「…………。
あったよ。……コレとか……」
本当に一部ではあるが、ちゃんと読んでいたらしい……(ぐぬぬっ)
子が知っているものを知らないままなのは悔しいので、面白かったと言っていた短編を一編読んでみた。日曜の朝イチに読むのは違う気がしたが、ダークでグロくても読めてしまうのは、やっぱり後世に残ってきた作品なのだなと、ちょっと勉強になった。
そして、お返しに泉鏡花を紹介してあげた。
「へぇ……」と言い、少し読んですぐに手放す子ども。
うん、うん、別にそれでかまわない。
今日知ったよくわからん一冊をまたどこかのタイミングで思い出して、手に取ってみようと思う日が来るかもしれない。それが“イキがる本”になったとしても、それはそれでOK。
イキがる本も、ミーハーな本も、本当に好きなものも、知っていることで楽しみが増えるんだから、全部プラスだ。
そう……
開くたびに何故か眠りに誘われるあのラテンアメリカ文学も……
ちゃんとプラスになってるんだよ!
いや、ちゃんと読むし! 断じてコレは“イキがる本”ではない! 断じて……
とりあえず、『百年の孤独』が“イキがる本”にならないよう、読んでいこうと思う……