とりあえず、引出しの片隅で、こっそり飼う。
小学2年生の頃、こっそりペットを飼うことに憧れていた。捨て猫や捨て犬を拾い、親にナイショで……という、アレである。
当時、わが家ではすでに鳥たち(チャボ、セキセイインコ)を飼っていた。
が、ゲージの中で可愛らしく飼うというのではなく、父が庭に建てた2棟の小屋の中で、それぞれ、わがモノ顔で暮らしていた。
年下のきょうだいが餌やりに来ようものなら
「ヤッチマイナァ!」
と、殺し屋のような目つきで攻撃してくる。
そんなリアル『キル・ビル』な鳥たちより、もっとかわいいものを飼ってみたい。しかも、自分だけでこっそりと……。
日に日に思いは募っていった。
ある日、わたしはこっそり飼うのにぴったりのものを見つけてしまう。
それは、きょうだいが集めていたミニカーの中にひっそりと身を潜めていた。
ミニカーの荷台を開けると、2匹、同じ種類のいきものが乗せられている。誰も見ていない。わたしは1匹をそっとポケットに忍ばせ連れ去り、自分の勉強机の引出しの中に隠した。
こっそり飼うペットとの生活は楽しかった。玩具だから鳴いて騒ぐことはない。紙箱で部屋やベッドを作ってやり、カラフルなビーズや“におい玉”をエサに見立てて食べさせた。
学校でイヤなことがあった時、家で怒られた時、そっと引出しをのぞく。わたしだけが知る小さな姿を見ると、動かなくても、何もしてくれなくても、うれしくて安心した気持ちになれた。
こっそりペットは、大切なこころのともだちだった。
しかし、この生活は突然、終わりをむかえる。
お盆でいとこが遊びに来た時、仲のいいいとこだったので、油断してしまった。
引き出しの中に隠していた箱を見られてしまったのだ。
「その箱、なに?」
「なんでもないよ!」
抵抗むなしく、箱はあっけなく開けられてしまった。
「なに? この……
かわいくないブタ?」
そうなのだ。
わたしがこっそりきょうだいから盗み、後生大事にペットとして引出しで飼っていたのは、養豚トラックのミニカーに乗っていたブタだったのである。
爆笑するいとこを前に、改めてブタを見る。
肌色のプラスチックで雑に作られたソレは、まったくかわいくなかった。
「きょうだいのイタズラかも?」
わたしは箱の中からブタを取り出し、ミニカーの荷台に返したのだった。
あのミニカーのブタに対しては、いとこに笑われた恥ずかしさと、ひみつフィルターがはずれたことであまり愛着がなくなってしまったが、引き出しの中をのぞくと小さくてかわいい何かがいるよろこびや安心感は残った。
大人になってからもずっと、職場の引出しの片隅にお気に入りのどうぶつフィギュアを忍ばせておいて、そっと愛でて、元気をもらっている。
さて、この小さな“お守り”たちは、たまに入れ換えを行っているのだが、最近、新しい仲間として狙っているものがある……。
それは、レゴ好きの子どもの玩具箱の中には潜んでいる……
どのコをこっそり飼おうか……?
とりあえず、こそドロ母は、今夜も玩具箱を物色するのだった。
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