とりあえず、全ては解せずとも、椀を分つは愉し
友人とファミレスでごはんをする。
仕事をはじめてからの友だちなのだが、職場が一緒だったのは一年半くらいだし、性格や経歴、今の家族構成など、けっこう違う。
なのに、なんで話したくなるのか……? よくわからない。
でも年に数回、お互いに誘い合い、遊んでいる。
狭いテーブル席で、パスタやピザをシェアしながら、朝ドラ『おむすび』の話をする。少し歳も離れているが、世代的にはギャル文化全盛時代にお互い中高生だった。「かわいいし、ああいう子、いっぱいいたよね」と話す中で、友人に「ギャルファッション似合いそー」と話を振ると
「うちは親が教師で、校則も厳しくて、
ルーズもミニスカも全然はけなかったー。
でも、憧れていたから、高校卒業してから
専門行くまでの1ヶ月弱だけ、髪色明るく
して、ルーズ履いてた」
と言う。
ついでに、大学に行かなかったことをなぜか両親以外の人から“もったいない”と言われた話も聞かせてくれる。
「勉強したくないから、高校も進学校じゃない
とこに行ったのにさ」
思い出して口を尖らせる。
知らなかった友人の一面。
ギャルの格好でモヤモヤしていた友人の当時の気持ち……ほんの少しだけ知る。
「儚いギャル期間だなー(笑)
今からプリでも撮りに行って、取り戻す?」
「やだよっ! そんな恥ずかしい!
そんなことより、チキン食べよ」
カリカリに焼けたチキンソテーを取り分ける友人に、わたしの制服ではギャルになれそうもなかった話や、ギャルの友だちの髪が芝生みたいな緑色になった話をした。
今の思いも昔の気持ちも、話したからって全部は共有できないけれど、この友人とごはんを共にするのは楽しい。
別の日、夫を誘って雰囲気のある街中華へいく。
「この中華屋さん、『飯を喰らひて華と告ぐ』のロケ地みたいだよ」
『飯を喰らひて〜』は、Tverで偶然視聴して「めちゃくちゃ良いね!」となったドラマだ。
中華料理屋「一香軒」にやってくる悩めるお客たちが、美味しい料理と、熱量高く勘違いしまくる店主に呆れつつも、思いがけず元気をもらうストーリー。
傾聴力とか、気持ちを全部受け止めるとか、そういう“カタチ”的なものを笑い飛ばす感じが好きだった。毎回差し込まれる、有りそうで無い“店主のオリジナル格言”もなんか良い。
原作漫画などを調べていた時、ロケ地となった中華料理屋があることを知って、出かけてみたのだ。
ご主人と奥さんとで切り盛りしているお店は、のんびりとしていて、とくにドラマのモデルになったことをアピールしてはいない。訪ねた日も、常連さんが1人……といった感じだった。
夫はチャーハンと餃子、わたしはチキンライスを頼む。
「中華屋さんになぜチキンライス??」と思い、つい頼んでしまったが、酸味が強い酢豚風のケチャップが中華を感じさせる。添えてある紅生姜を混ぜると、さらに美味しい。
「美味しいねっ!!」と、小声できゃっきゃするわたしを前に、ものも言わずチャーハンと餃子を喰らう夫。
せっかく一緒に食べているのだから……美味しさや楽しみを、夫とも分け合いたい。
「チキンライス、美味しいよ。
メニューにある目玉焼きも頼んでのせて
もらうのが正解だったかなー?
一口、分けてあげようか?
(チャーハンも一口分けて欲しいな)」
キラキラした目で伝えると……
「……
いらない……。」
そして、独り占めするかのようにチャーハンをかき込む夫。
すっかり忘れていた……
夫は“美味しい物は1人で食べても美味しい”という、協調性をカケラも感じさせない名言を掲げるヤツだった……
とりあえず、夫に“椀を分つは愉し”は通用しない。
“欲しい飯は脱兎の勢いで奪え”に格言を変え、餃子に手を伸ばす隙を逃さず、無言でチャーハンを奪うわたしであった。