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【短編小説】恋愛アドバイザー、今日も頭を抱える

「なあ、好きな人ができたんだけど、
相談乗ってくれない?」


スマホの画面に浮かぶその一文を見て、
私は思わずため息をついた。

またかよ。

送り主は大学時代の友人・けんじ。
前回、「紹介してほしい」と言われて
私の知り合いを紹介したものの、
「話がつまらない」「会話が噛み合わない」と
不評だった男だ。

それなのに、懲りずにまた恋をしたらしい。

「誰?」と送ると、
すぐに「バイト先の先輩!」と
ウキウキした返信が返ってきた。

(うまくいく気がしない……。)

そう思いながらも、
適当に流そうとした矢先、
追加でメッセージが届く。

「今度、その先輩とご飯行こうと思って誘ったら『他の人も呼ぶ?』って言われたんだけど、なんて返すのが無難?」

(……ああ、これは……。)

私は少し考えてから、
「2人で話したいからって素直に言いなよ」
と返す。

しばらく既読がつかず、
けんじの脳内会議が長引いているのが
容易に想像できた。

そして数分後――

「言った!そしたら、『あ、そうなんだ!』って返ってきたんだけど、これは脈あり?」

(知らんがな。)

私は思わずスマホを置きそうになったが、
まあ、少なくとも「じゃあ、みんなで行こう!」とならなかっただけマシか……?

そこへ、スマホの通知がもう一つ鳴る。

今度は別の友人・しゅんからだった。

(嫌な予感がする……。)

画面を開くと、案の定、また恋愛相談だった。

「最近マッチングアプリ始めたんだけど、
全然うまくいかない。どうすればいい?」

(……今日は恋愛相談デーなのか?)

しゅんも、以前「紹介して」と言われて
知り合いを繋げたものの、
まったくうまくいかなかった男だった。
どうやらアプリに切り替えたものの、
そっちも苦戦しているらしい。

「どんな人がいいの?」と聞くと、
少し間を置いて返信が来た。

「うーん……話を聞いてくれて、
あんまり干渉しすぎない人かなぁ。」

(……理想が高すぎるのでは?)

私はけんじとのやり取りの合間に、
もう一つアドバイスを送る。

「じゃあ、まずは相手の話をちゃんと聞くこと。そして、相手の時間も尊重すること。
要するに、最初から“理想の人”を探すんじゃなくて、まずは相手を知るところから始めるのがいいんじゃない?」

「なるほど!」

と返ってきたが、またしても不安しかない。

そんなことをしている間に、
けんじからのメッセージがまた届く。

「あとさ、どうしたらデート成功すると思う?」

私は、一度深呼吸をしてから、
既視感たっぷりのアドバイスを送ることにした。

「まず、自分の話ばっかりしないこと」
「次に、ネガティブなことは言わないこと」
「それから、ちゃんと相手を褒めること」
「あと、紳士的な対応を心がけること。」
「最後に、会話のテンポを相手に合わせること」

「これ、できる?」と送ると、
ケンジからは「なるほど!よし、やってみる!」とやたら前向きな返信が来た。

(いや、本当にできるなら、
前回も失敗してないでしょ……。)


しかし、それから数日後。

「やばい、今デート中なんだけど」

というメッセージが届いた。

「何がやばいの?」と聞くと、すぐに返事が来る。

「質問ばっかりしてたら、
面接みたいになった……」

私は、そっとスマホを置いた。

すると、
すかさずしゅんからもメッセージが届く。

「実はデート行くことになったんだけど、
アドバイスちょうだい!」

(……デジャヴ?)

私は無言でスマホのメモ帳を開き、
さっきけんじに送ったアドバイスを
丸ごとコピー し、しゅんのチャットに
ペースト した。

しゅん:「ありがとう!頑張る!」

(コピペ対応したのに、
なんで元気なんだ……?)

そして、けんじの運命の夜。

「やばい、今デート中なんだけど」

(またかよ。)

「何がやばいの?」

「会話のテンポを合わせようとしたら、
相手が黙ったときに俺も黙ったら、
空気が重くなった……」

(そりゃそうだろ。)

その瞬間、また通知が来た。

しゅん:「デート行ってきた!でも、相手の話を聞こうとしすぎて、気づいたら俺、3時間ずっと相槌打ってただけだった……」

……もう、ダメだこいつら。

私は静かにスマホを伏せ、天井を見上げた。

「恋愛アドバイザー、引退しようかな……」

***

読んでくださりありがとうございました。

皆さんは恋愛相談に乗ることはありますか?
相談きた時にどう返すのがいいのでしょうか…


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