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ショートフードエッセイ『秋の月とジャガイモ』

ぬぁぁぁ〜…とうめき声を口からこぼしながら、湯船に浸かる。
つっと顔を上げると浴室の小さな窓に月が見えた。
正確には、窓は曇りガラスなので、窓枠とお隣の軒の隙間にぼやぼやっとした光が見えただけだが。

あぁ、だいぶ秋が深まってきたなと思う。

月の軌道の関係か、私の入浴の時間の関係なのか、夏はあまり見えない。
なので、秋冬、湯船からそのぼやぼやとした光を見るのが、好きだ。
冬に近づくにつれてその光は青く白く硬くなる。
今はまだ黄色よりの柔らかな光。

ジャガイモみたい……そうだ、肉じゃがにしよう。

何を見ても、思考が食べ物へと向かっていく食いしん坊である。

主役のジャガイモは男爵。煮崩れても存在感が損なわれないよう、大きく切って、玉ねぎ、にんじん、牛肉はそれよりすこし小さめの一口大に。
ざっくりと炒めたら、水、醤油、みりん、砂糖少々。
落とし蓋をしてコトコト煮れば、秋の食卓に相応しい一皿。

秋の夜にしみじみ美味しい。

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