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ショートフードエッセイ『超えられない味』

超えられない美味しかった物達が沢山ある。
それはもう、自分の中で思い出補正がかけられて、実際の味よりずっとずっと美味しくインプットされている。

例えば、子供の頃夏休みに行った家族旅行の帰り。高速道路のサービスエリア、車のトランクに腰かけて食べたいちごのかき氷。
熱が出ると母が食べさせてくれた、すりおろしりんご。
おたふくカゼで寝込んだ時に、祖母が作ってくれたキャベツ入りのお粥。
友達のお母さん(農家)が持って来てくれた、もぎたての不揃いトマト。
旅先で高熱を出した父の運転で、休み休み帰ってきた途中の直売所で買った、桃。
高校生の夏休み、アルバイト先の賄いでいただいた、地引網で取った鯵の握り寿司。

中年になり、きっと、もっと美味しいそれらを食べているはずだけれど、どうにも忘れられない。
きっとこれからも越えられない。
思い出込みの味。

どれも高級なものではないけれど、そういう物を増やしていきたい。


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