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手塚治虫の人生のテーマと次の世代へ

この本『ぼくのマンガ人生』(岩波書店、1997年)は、手塚治虫の1986年から1988年にかけての講演記録から漫画家人生をまとめた自伝である。

この本には、マンガやアニメーションの発展において、さきがけを担ってきた著者がどのような境遇や心境で作品を描いてきたのか自らの歴史を振り返りながら記されている。そして、これからの世代に対したメッセージが力強く語られており、著者の各作品への目の向け方が変わる、そんな一冊であった。


小学生時代に始まる本作は、いじめられっ子であった著者がある友人や先生、父親が買ってきた映画フィルムとの出会いによってマンガを描くに至った理由から始まる。中学時代には悲惨な戦争を経験したが、戦時中も漫画を描き続けた。のちに、大阪大空襲と8月15日がぼくのマンガの原点だと語っている。戦時中に得た知識や経験の影響が特に出たのが『ブラックジャック』である。そんな著者がこれからの子どもたちへの期待と、おとなたちがしていかなくてはならないことをメッセージとして残している。

全体を通して「我慢」という作者が母から得た言葉がひとつのキーワードである。我慢しなくなること「それをつづけているうちにだんだん孤独になります」(168頁)、作者は一期一会を座右の銘とし、自作『ジャングル大帝』のレオを例にして、触れ合いが大切であると語る。昨今、我慢を投げ出す情景が簡単に浮かぶ。もちろん時には我慢をやめることも必要であるが、作者の壮絶な子ども時代を読むと我慢の大切さに対して非常に大きな説得力を感じる。

これからの世代に対してメッセージを残した本作ではあるが、大人にこそ読む価値がある。こどもが夢を持つのは大人の影響であり、こどもはもっと非現実的な夢を持つべきである。夢を持つための冒険は大人にとっての日常の中にもたくさんある。大人たちとは違う環境で生まれたからこその新しい考えを持った子どもたちを大事にしなくてはならない。そんな考えを持つために先人の人生を覗いてみてはいかがだろうか。

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ジヴェルニーの草原
クロード・モネ 1890年
(モネ 連作の情景にて2023年に鑑賞)

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