小説 『ある夜のTarzan』
タアザンは夜道を歩いていた。月光がジャングルの獣道を照らしていた。熱帯の植物たちは、高湿の土壌に腐朽して異臭を放った。タアザンはこの臭いには慣れていたが、今夜はひどく鼻がいたんだ。肉食獣たちの咆哮が遠く山脈にまでこだまし、獣道をぬけた突きあたりにある湖沼の水面をかすかに蠕動させた。タアザンはいま、虎を捜していた。虎は、昨夜おそく、タアザンの住む洞窟を襲撃してきたのだ。
虎とタアザンは、タアザンがこのジャングルに西の高地から移り住んできて以来の仇敵であった。彼等はこれまでいたるところで遭遇するたびごとに、闘争をくりかえしてきた。虎にとっては、タアザンは、自分のジャングルにおける支配権を脅かす闖入者であった。タアザンもまた当初争うことを嫌ったが、迫害され、独立を脅かされれば、戦いに応ぜざるをえなかったのだ。それに、虎はこのジャングルに於ける王者の具体であった。虎を倒し、その黄と黒に彩られた毛皮をえれば、それは、彼がこの密林の帝王となることを意味していた。
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