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カーラ・ボノフ&リヴィングストン・テイラー コンサートレビュー(2023年9月6日 ビルボードライブ大阪 1st ステージ)

カーラ・ボノフは、私が最も多くコンサートを観ているアーティスト。もう10回にはなると思う。前回観たのはコロナ前の2018年、その時のコンサートも十分に素晴らしかったが、強いて言うと、高音部を出すのが少し苦しそうだったのと、見た目にも少々老け感があって、長年憧れてきた「麗しの女(ひと)」も流石に歳には勝てないかと少し複雑な思いだった。それから5年も経ったので、今回は観るべきかどうか若干躊躇したのだが、リヴィングストン・テイラーとの共演ということで、やはり行ってみることにした。

リヴィングストン・テイラーは、唯一コンサートを観たのがアルバム『Life Is Good』が出た後の1988年頃。神戸のライブハウス「チキンジョージ」であった弾き語りライブは、私自身その当時まだあまり認識していなかったアーティ・トラウムがサポートを務めたもので、くつろいだ雰囲気の温かみのあるステージだった。ただ、90年代後半以降はあまり熱心に彼の動向をフォローしなくなってしまっていたので、彼の最近の音楽傾向をあまり認識しないままステージを見ることになった。一方、カーラの方は、今までにもJ.D.サウザーやジミー・ウェブとの共演で何度か来日しており、私自身、J.D.との共演は3回観ている。したがって、今回のコンサートもどんなものになりそうかある程度イメージ出来ていたのだが、結果は予想を上回るものだった。

ステージが暗くなると、まずは二人が揃って登場。カーラのファーストアルバムからの曲「Home」で幕を開けた。近年のカーラのコンサートでオープニングの定番となっている曲だが、サビの部分でリヴがハーモニーを加えると「いいなぁ」と感じた。カーラのコンサートは、盟友ケニー・エドワーズが亡くなって以降、ほとんどの場合、歌わないギタリストであるニーナ・ガーバーとの二人編成で行われてきたので、彼女のライブで美しいハーモニーを聞くのは久しぶりだった。10年ほど前のJ.D.とのライブでも二人でハモっていたが、その時は曲によってはJ.D.がやや準備不足の感があった。それに比べてリヴは、子供の頃から兄弟でハモってきたこともあってか、ハモりはお手のものといった感じで、カーラの声に見事に溶け込むように歌声をのせてくる。

2曲目は、リヴがアルバム『Life Is Good』で兄ジェイムスとデュエットしていた「City Lights」。今回は、カーラとのデュエットというより、コーラス部分のみにハーモニーを入れるアレンジ。カーラの曲にリヴがハーモニーを入れる先程のパターンに比べると若干恐る恐るの感もあったが、この二人の声でこの曲が聞けるというのもまた乙なものだ。(下の映像は、発表当時のジェイムスとのデュエット)

2曲が終わると、一旦カーラが舞台袖に引っ込み、リヴのソロに。ここから彼らしいエンターテイメントの世界が展開される。バックミュージシャンが入った彼の70~80年代の作品ばかり聞いていると忘れがちになるが、近年のリヴのコンサートはほとんどが弾き語り。しかも、ユーモア溢れるエピソードも交えて、ちょっとした音楽漫談のような趣きになっている。そう言えば、そのユニークさは94年発表のライブアルバム『Unsolicited Material』でも既に遺憾なく発揮されていた。それからさらに歳を重ね、好々爺のようになった今のリヴは、さしづめ落語の大御所師匠といった風情。アコースティックギターを絶え間なく爪弾きながら、足でリズムを取って話しかけるように歌うそのスタイルは、アメリカの観光地などによくいるストリートミュージシャンのようでもある。リヴのアコースティックギターは、ジェイムスに似たところもあるが、ジェイムスより多彩で、フィンガーピッキングのテクニックはかなりレベルが高い。

今回のセットでは70年代の作品はあまりなく、メドレーも含めカバーの比率が高かった。しかも、「オズの魔法使い」や「王様と私」などの往年のミュージカル作品をジャズ的なニュアンスで聞かせるというパターンが核になっていた。兄ジェイムスの近作もアメリカンスタンダードのカバー集だったが、彼ら兄弟の幼少体験にロジャース&ハートやオスカー・ハマースタイン2世といったアメリカのポピュラー音楽の伝統が染み込んでいることが実感できる内容だった。リヴの場合、一般に知られている代表曲というのも特になく、兄に比べると通向けの存在として地味に見られがちだが、今の彼は、シンガーソングライターというより、独特のフィンガーピッキング演奏でジャズやアメリカンスタンダードを聞かせるエンターテイナーといった方が相応しいかもしれない。そういう意味では、彼独自のスタイルを確立しているといえる。(下の映像は2020年のライヴより、今回アンコールで披露した「Merry Old Land Of Oz / Over The Rainbow」)

リヴのセットが一通り終わると、リヴがカーラをステージに呼び、二人でジェイムス・テイラーの「Carolina In My Mind」を披露。この曲での二人のハーモニーも、他では味わえないこのコンサートならではのご褒美といったところ。

ここで今度はリヴがステージを一旦降り、カーラのセットに。グランドピアノの前に座った彼女は、まずお馴染みの名曲「All My Life」を披露。嬉しい驚きだったのは、前回に比べて声量がかなり豊かだったこと。衰えを感じさせないどころか、今まで見た中でも上位に入る力強い歌声だった。少し遠目ではあったが、ピアノ越しで正面から見る彼女はやはり「麗しの女(ひと)」であった。彼女のベストセレクションとも言える曲が4曲続いた後、再びリヴが登場。お互いの持ち歌をハモりながら交互に演奏するという形で、コンサートは和やかに幕を閉じた。

リヴの明るい性格のせいか、全体として優しく温かい雰囲気に包まれ、カーラもリラックスした様子だったのが印象的だった。二人の組み合わせは、今回の来日のための急ごしらえではなく、アメリカでも昨年から何度か共演しているし、今年のクリスマスシーズンにも二人でのコンサートが予定されている。それだけに息も合っている。カーラのお決まりのエンディング曲で、レコードではJ.D.サウザーとジェイムス・テイラーがハモーニーを加えている「The Water Is Wide」でリヴがハーモニーを付けたり、リヴの持ち歌でもある「Over The Rainbow」でカーラがソロパートを歌うなど、普段聞けない彼女の歌に接することができたのも貴重だった。

Livingston Taylor and I want to thank everyone in Japan for a fabulous tour! We hope to see you again soon! @...

Posted by Karla Bonoff on Saturday, September 9, 2023

[Set List]
Karla & Liv
01) Home
02) City Lights
Liv
03) Our Turn To Dance
04) If I Only Had A Brain / (?)
05) Pick Yourself Up / Blackbird
06) There I'll Be
07) Arthur's Theme (Best That You Can Do) / I Belong
08) Life Is Good
09) Going Around One More Time
10) Pajamas
Karla & Liv
11) Carolina In My Mind
Karla
12) All My Life
13) Restless Nights
14) Trouble Again
15) Someone To Lay Down Beside Me
Karla & Liv
16) Isn't It Always Love
17) Getting To Know You
18) The Water Is Wide
[Encore] Karla & Liv
19) Merry Old Land Of Oz / Over The Rainbow


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