有り体に言えば空白だった
必要なものがあった。それは考える時間のような忍耐強い空白だった。雨が降っていればなお良かった。雨は時間とか思考とかいったものを押し流してしまう。
世界が刻々と変化している、という感覚があった。それは、自分だけが変わらず置き去りにされている、という感覚でもあった。どこにも行けない、何もできないという閉塞と停滞は、物理的ではない重さをもってぼくを圧した。
悲しくはない。怒りもない。いま僕に在るのは有り体に言えば空白だった。感情の隙間にあるどうしようもない空白は、人生みたいな複雑なものを蝕んで無感動な直線にしてしまいそうな感じだ。
抗わなければいけないのか、従わなければいけないのか、そんなことはもう仕方のないことだ。ぼくは結論を出さない。そうしてこの空白を先延ばしにすることで、甘い眠りのなかに群生するのだ。