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文学とは何か

 序 

 文学とは何か、といったタイトルの著作は多々あり、名のある文学者たちが挑んできた難しい領域であることは承知している。今回はこのシンプルな題名で、自分なりに文学について考えていることをつらつら書こうと思う。

 前提として、この文章の著者であるぼくは、この春から大学院生になる23歳の男である。文学を学び始めて半年といったところのほぼ門外漢ではあるが、初心に筆を取って、書いてみることから始めようと思うのだ。自分の文学観を記録するという意味でも、いいかもしれない。そういうのってありますよね。

 

文学が担う感情

卒業論文の折、「文学とは何か」というクエスチョンがあったので、文学を定義している言説を辞書や文学者の言葉たちから集めて、対照してみたことがある。結論として、定義は多様であるというのが現状であった。いまWikiを見てみると

  文学(ぶんがく)とは、言語表現による芸術作品のこと。

 と書いてある。実に淡白。辞書にはこういった形式について時に例を挙げながら書いてあることが多い。一方で研究者や作家は「感情」「豊かさ」そして「心」という言葉を使い定義しようと試みる。文学にじかに接している(あるいは作り出している)彼らは、形式以上にその内容によって、効用によって文学を観ているのである。

 今回はこの「感情」についてクローズアップしてみたい。では、文学は人にどのような感情を与え、どのようなことができるのだろうか。

 まず一つ、文学作品は読者であるぼくたちに未知を提出する。これを読み下すこと、理解することが「読書」と呼ばれる解釈の作業である。未知のものを理解しようとすることに抵抗があったり、その熱量が読者にない場合、読書は失敗する。文学作品が難解である(特に純文学において)と考えられる理由は、それらの作品群が多大なる未知なる情報(謎)を含んでいるからとも言い換えられるだろう。

 未知を畏れる人間がいれば、未知に嬉々として飛び込んでいく人間もいる。その人々にとって上記の行為は「喜び」であり、「楽しみ」である。未知の抱える不安をそういった感情に転化することができることが、本を読むことには、特に日常的に読んでいくためには欠かせない推進力だ。

 これはぼくの個人的な問いでもあるのだが、ぼくの詩は、小品は、どれも暗澹とした色調を帯びている。なぜだろう?。太陽の下で稚児が笑っていることや、花々が咲き乱れ、少女がはにかむ姿など、そういったイメージで書くことは殆どないのだ。

ぼくの文学意識

 ぼくは、文学をなにか「暗いもの」や「影」として捉えている。しかも無意識的に。

 これはぼくの読んできた本たちの傾向によるものだろう。嗜好とも言い換えられるだろうか。しかし、文学そのものに「暗さ」があるようにも思える。「死」や「暴力」、「孤独」「渇き」「性愛」という明治の文豪たちが描いた数々の作品、それから海外文学にも、それらのテーマが見つけられるだろう。血と戦火の歴史に彩られた、暗礁のなかに立ちあがる文学の姿が、ぼくにはいかにも自然なことに思える。

 あるいは、と思う。すべての文学に血なまぐさい戦争や暗いイメージがあるわけではない。むしろ現実に社会は、それとは対極にある明るさをもって動いているように見える。

 対極にあるのだ。これはつまり、現実の、社会に向けてのアンチテーゼであると捉えることもできるかもしれない。戦争を、歴史を忘れるなというメッセージだなどという陳腐なことは言えないが、なにか現実が生み出した鬱屈が、想像の世界に影響を及ぼしているように思える。

優しくないものを

 感情の話に戻ろう。つまり文学は、悲しみを、憎しみを、馬鹿らしさを、虚脱を、愛を、すべてのネガティヴな感情をもって読者の前に立ちはだかり、それらを教えることができる。ぼくはこれこそが文学の効用だと思う。人間の深みは失敗の数だとでもいうように、ぼくは人間の深さを増してくれるのは、どれだけ負の深みを知っているかだと思う。自分では経験できないことを文学は顕現してくれる。女を寝取られることもできるし、死の淵に立って絶望することも容易い、父を殺すために旅をする青年の憎悪を聞きながら、傍観することだってできる。 

 ぼくたちが生きていく世界はあなたが知っているように優しいものでは決してないけれど、その中で優しく在るためには、「優しくないもの」を知っておく必要があるのだ。それは月並みに【文学作品を読めば、人生が豊かになる】という表現に集約されてしまうが、その「豊かさ」を分解してみると、それはじつは深さなのだ。つらいことをすっぽりと包み込んでしまえる深さ=強さ。それを得るために、文学が一役買ってくれるだろう。


こんな雑考以上論考未満みたいな半端な文章をよんでいただきありがとうございます。みなさんにとって文学はどのようにそこに在るもの(あるいは、無いもの)でしょうか。考えてみてください、そしてよければまた、教えてください。

それでは、また。

つづり