3月21日

 待つ時間はつらかった。時間は、蛇腹のように、深いひだをつくって幾重にもたたみこまれていた。その一つ一つに、より道しなければ、先に進むことができないのだ。しかも、そのひだごとに、あらゆる形の疑惑が、それぞれの武器を手にひそんでいる。それらの疑惑と論争し、黙殺し、あるいは突き倒して進んで行くのは、なみ大抵の努力ではなかった。

安部公房『砂の女』(新潮文庫、134)