中国「軍事強国」への夢―劉明福を読む-1<感想>
概要
今回も内容にはほぼ触れず、この本から受ける印象について述べる。
ある意味で本書に流れる通奏低音の話をする。しなければならない。
これはある種の予防注射だ。こういう前提があると分かって読むとあっち側には持っていかれづらいと思う。
一巡目の感想
とまどい
一巡目を読み終わった。正直、戸惑っている。
軍人とは、武人とはこういう人種なのだろうか。
最初は公式プロパガンダを自覚しながら書いているのだろうと思っていた。しかし最後まで読みあとがきや解説まで読むと印象が変わる。
国を心から愛し、信じ、その輝かしい未来を一点の曇りなく信じて、そこに身を投じる。己を律し、どんな相手にも言ったことは守る、誠実ないい人。そんな印象を受ける。
一方、訳者の加藤嘉一氏によれば日本の核武装を容認し、米国の支配下から脱して独立するべきだとして、戦後レジームからの脱却を唱えた故安倍晋三前総理を称揚する。好敵手の存在を喜ぶようですらある。時間を守り、礼儀正しく、質素倹約を率先垂範し、贅沢を嫌って腕時計すらしない。武士に近いストイックさすら感じる。
一番縁遠い職業
おそらく現代日本人には最も縁遠い職種―「軍人」
そんな人間が、語る内容は、そうであるがゆえに恐ろしい。
このノートでは中身の詳細を語ることはしない。皆さん買って本で欲しい。
ここではただ、私の感想を述べようと思う。
まずこの本の後段で繰り返し言われているのは、
2049年までに中国は米国を追い越し、経済・軍事ともに世界一になる。しかし米国のような覇権主義は行わない。人類運命共同体を構築する。
という主張である。
総合国力で米国を追い抜き、世界一になる=中国の夢
軍事力で米国を追い抜き世界一流の軍隊を構築する=強軍の夢
ここまでは分かるのだが、最終段階の「人類運命共同体」とは一体どういったものなのか?一切の言及がない。
そして「歴史上対外侵略戦争をしたことのない国家として世界一になった中国が世界を導いていく」というナラティブを語る。しかし、彼は同時に、国益の確保は国の権利(国権)であるとして、自国の利益最大化について一切の躊躇いがない。東シナ海の岩礁を埋め立て軍事基地化することは国権だ国益だと言ってはばからないのである。
また彼は米国によって世界は支配されている。要所要所を抑えられている。だから中国はそれに挑戦し、世界一になり、世界を開放してリーダーとなる云々…という再びナラティヴに回帰していく。
意図的に省いているもの
つまり彼は、中国は強大な経済力と軍事力を以って世界を支配する。ガタガタ抜かす奴は金と暴力で殴って黙らせる。利害が衝突している部分については国益を追求するのは当然であるから中国はそれを確保しなければならない。と帝国主義そのままの言論が出てくる。うっかり軍部が工作しないだけの帝国主義そのものである。彼は愛国者であるから双方が折れて調整するという点が抜けていて、中国が総取りすべきだ。その状態がウィンウィンだと言ってはばからない。逆に言えば敢えて意図的にコンフリクトした相手(例えば軍事基地を作られたフィリピンなど)については言及しないのである。一般的にそれを侵略と呼ぶのではないのだろうか?本書最大の矛盾がそこにはある。
また彼は米国についてはことさら、善悪二面をとりあげる。特に悪の面を強調するが…。一方、中国については綺麗な部分(≠善)しか語らない。
だからこの本を読むときには気を付けなければならないのだ…。この本にはそうした見えない前提をくみ取りながら読む必要のあるということを言いたい。
しかし…いや、もしかしたら可能かもしれない。そんな中国もできるのかもしれない。中国人が全員、彼のような人間であれば…だが…。
追記
あと一点、これは彼が軍人だからなのかも知れないが、彼の語る理想的状態と現実に齟齬がある場合、理想は理想だが現実的対応を取る事に躊躇いがない印象だ。
具体的に言えば武力によらず台湾は欲しい(理想)が、落とせないなら落とせるまで武力を使う。のような形でプランBに暴力の影がチラつくと言うか、二言目には剣呑な事を言い出す。
読んでいて、3つ数える間に話せ、言わなきゃ撃つぞと言われてる映画のシーンを思い出す。そういうある種の恫喝のような事をサラッと言うのだ。
私には一銭も入らないのだが、ご購入はこちらから
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