東大卒、キャリア官僚、既婚子持ちのスーパー同級生と会ってきた話
僕には友達がいないというのは何度かnoteでもお話しているが、これは「今友」、つまり今現在友達として付き合いのある人間がいないという意味で、学生時代の昔の同級生、いわゆる「旧友」は片手で数えられるくらいはいるのである。今回はそのうちの1人と会ってきたという話だ。
誘いのLINEは突然に
ある土曜日の夜、僕がいつものように家でビールを片手にYouTubeを見ながらくつろいでいると、めったに鳴らないLINEの着信音が聞こえた。煩わしげに通知に目をやると、ある高校時代の同級生からで、用事でこちらに来ているので、明日あたりよかったら会わないかという旨のメッセージだった。僕はギョッとしてたちまち酔いが醒めてしまった。
僕はこういう時、たとえ行きたい気持ちがほんの少しでもあろうとも、すぐには承諾の返事をしないことにしている。なぜなら、今までこういうシチュエーションで人と会って、楽しかったというか、良い時間を過ごせた試しがほとんどないからだ。大体、うまく会話ができずに終わるか、相手と自分の境遇を比べて落ち込んで終わるという結果になるのである。
しかも、タイトル通り、今回はもうバケモノみたいなスペックを持つ、非の打ちどころのない同級生である。天は二物も三物も与えるというのはまさにこのことで、家柄もよく、超絶有能なナイスガイで、最高学府を卒業し誰もがうらやむキャリア官僚の地位を手にしただけでなく、最近結婚し、子どもが生まれたことを本人から聞いた。僕が彼に唯一勝っているとすれば、Xのフォロワー数ぐらいなものだろう。
いや、別に東大に行きたかったとか官僚になりたかったとか言いたいわけではない。だが、彼と会ってしまうと、僕の「臆病な自尊心」は簡単に崩壊してしまうだろう(いや、もうプライドなんてあってないようなものだが・・・)。
確実にマウントを取られると分かっていてわざわざ会う道理があるだろうかと、僕の「尊大な羞恥心」は彼に会うことを拒否している。しかも、奥さんと子どもを引き連れて3対1でマウンティングなどされたらこちらとしてもたまったものではない。
一応のため、「ご家族も一緒なの?」と聞くと、相手は彼1人ということだった。憂鬱な気持ちになるには違いないが、高校時代はそれなりに世話になっていたし、結局はほとんど義理で誘いを承諾することにした。
久々の対面
久々に会った彼はパーマをかけていて、フサフサの髪を風になびかせていた。若ハゲ治療中の身、本当に何一つ僕は彼に勝てないのだと思った。駅前の適当な居酒屋に入る。
さて、まずは社交辞令的に相手の子供の話を持ち掛けるのが筋だろう。写真見たいなァと言おうかと思いきや、それをするまでもなく彼がおもむろに取り出したスマホの壁紙が子供の写真だった。まぁ新米の親なら99%はこうするだろう。「お食い初め」か何かだろうか、どこかの写真館で撮影された、良くできた写真だ。
料理が来るのを待ちながら、子どもの名前の由来とか、子育ての苦労とか、さして興味はないが色々と聞きながら適当にリアクションを取った。僕は身近な人、例えば親戚の子どもとかと触れ合った経験が全くないので赤ん坊の生態とか育児は本当に未知の領域だ。僕には想像もつかないぐらい大変だが、同時に僕には想像もつかないぐらい幸せな毎日を送っているようだ。育休を取って職場に復帰したばかり、3人だか4人だかの部下を抱えているが、残業もほぼなく至ってホワイトなのだという。せめて職場だけでも交換して欲しいものだ。
憂鬱な近況報告
相手の近況をひととおり聞いたら、当然こちらはどうだという話になる。僕は本当に中身のない人生を送っていて、こういう時に話せる情報がなくて困るのだが、僕も少し酒が入ってきたし、話を盛って架空の彼女や女友達を登場させてもすぐにボロが出るので、正直ベースで話すことにした。最近マッチングアプリで同年代の女性と知り合ったけれど、結局コミュニケーションがうまくいかず、振り出しに戻ってしまったというような話だ。
彼がどんな気持ちでそれを聞いていたのか知るよしもないが、「年上にならモテそうだよね」「とりあえずサングラスでもかけてみたら?」という口から出まかせのようなコメントを貰った。サングラスの話は置いておいて、まぁ確かに、女性慣れしていない自分が年下に対して積極的にリードするよりも、包容力のある年上の女性に身を任せられるのはある意味ありがたいし、安心できるところはあると思う。
だが、年上の相手というともう30歳以上という意味であり、嫌でも「結婚」という2文字を意識しないといけないだろうが、僕には特にそんな願望もない。子どもが欲しいともあまり思わない。ビールジョッキを片手にそんな言い訳をとつとつと並べたてる僕に、「もうこんな年齢なんだから、それなりの覚悟を決めて恋愛しないとね~」という火の玉ストレートを喰らい、僕はムムム…と言葉に詰まる。
いや、既婚者がそう言うのだからぐうの音も出ない。10年前、5年前なら分かるが、この年齢で今更恋愛ごっこなどしようもないのだ。既婚子持ちの彼の前で、いつもXやnoteで「いない歴=年齢が・・・」とか、「マッチングアプリが・・・」とか、「女性とコミュニケーションを・・・」などと言っている自分があまりにも幼稚に思えて、だんだん泣きたくなってきた。
あの子どうしてる?という話
お互いの近況も話し尽くし、話題があまりなくなったら、大体クラスで一緒だった同級生の女子がどうしてるかみたいな話になる。彼はインスタで何人かと繋がっているらしく、当時僕の気になっていた子の様子も聞けたが、みんな漏れなく結婚してしまったようだとのことだった。ストーリーだか何だかを見て知ったとのこと。
これは知りたくない事実だったが、まぁ、当然だよねとも思う。世にいう結婚ラッシュというか、それなりにまともに経験を積んできた人は身を固めるにふさわしい年頃だ。
彼女らのインスタの投稿を見せてもらうこともできたかもしれないが、僕の記憶の中の彼女たちを10代のままで留めておきたかったので、あえてそう言わなかった。悶々としていたらそろそろ彼の新幹線の時刻が来てしまうとのこと。やはり予想通り憂鬱な気持ちで彼と別れ、トボトボと家路を辿った。久々に人と長時間話したということもあり、家に帰ったらドッと疲れが押し寄せてくるのを感じた。
後日談
後日、僕は彼に出産祝いを送った。これは、子どもの話も色々聞かせてもらったのもあって、さすがに何もしないわけにはいかないという義務に駆られたのもあるが、もうひとつ別の目的、すなわち、このカタログギフトのたった4,000円を手切れ金とし、もう二度と彼とは会わないという僕の意思表示のつもりでもあった。
手切れ金などというと男女関係みたいだし、もちろん相手がそこまでの気持ちを汲み取ってくれたとはさすがに思わないが、相手も家庭を持っているわけだし、僕がわざわざ意思表示をしないまでも、今後会うことはない気がしている。こうして僕は自分から人間関係の糸をまた1本断ち切ったのだった。(おわり)
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