インスタグラムでフィルム映画を見る (L.A.)

 ふらりと夜、小規模の映画館や誰かの裏庭(通常ロサンゼルスは夏の間、多くの野外映画会がある)に出向いて知らない人々と映画を見るのが好きだ。近頃古今東西の映画がストリーミングで無料公開されているが、ブックマークが積読のように増える一方で、ほとんど見ていない。本当に見たい映画なら自分のラップトップでも良いのだが、映画館の奥行きや人の気配はストリーミングだと得難い。

 どこかに行って映画を見ることが叶わない今、一つだけ好きな「上映会」がある。映画フィルムの保存修復に携わるマーク・トスカーノ氏が毎週火曜日の夜、アパートの壁に16mmフィルムをプロジェクターで映し、インスタグラムライブで配信する「上映会」だ。見るのはiphoneの画面越しでも、リアルタイムでフィルムの映写が見られる数少ない機会であり、映像と自分の間に距離が感じられて心地よい。

 インスタライブはホストの姿を映すのが常だが、マークは夜、電気を消した部屋でプロジェクターと壁の間にスマホを据え、喋り、フィルムをかける。かかる映画はその日次第だが、どれも普段フィルムアーカイブで働く氏が職場の一時休止を受けて自宅に持ち帰ったり、私物で持っている実験映画やアニメーションのフィルムだ。10分程度でストーリーの展開を主とせず、イメージとテクスチャーが楽しめるのが良い。そして何より、映写を挟んで暗闇で喋るマークの話が面白い。フィルムとの出会いや有名無名の作り手のエピソード、修復の裏話など惜しげなく話してくれるので、アメリカ実験映画のみならず映画文化全般のとても良い勉強になる。一番最近はP.D. Spoeckerという人が60年代に作ったサイケデリックなドローイングアニメーションを見た。

街のあちこちに赴き、知らない人々と夜一緒に映画を見る親密な感覚はまだ懐かしく残っているが、そのうち別世界のファンタジーのように感じられるのだろうか。マーク氏の上映会は、ガラス越しに覗くミニチュア映画上映会のようにも思えてくる。この上映会には毎週50人ほど観客が集まり、♡やコメントを投げている。

*毎週アメリカ西海岸時間の火曜日20時からインスタグラム @preservationinsanity で開催されています。

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