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エンタープライズ企業への営業=ABMではない?
エンタープライズセールスが注目される昨今、特にスタートアップ企業の間では、アカウントベースドマーケティング(ABM)がしばしば営業戦略の中心的なトピックとして取り上げられています。しかし、「エンタープライズセールス=ABM」という認識が一般化しつつある一方で、現実にはこれらが完全に同一視できるものではありません。
本記事では、ABMとエンタープライズセールスの違いや限界を整理しつつ、効率的で現実的な営業手法について考察します。
ABMを一気に数百社同時に進めることは不可能
ABMは、特定の企業(アカウント)に焦点を当て、その企業のニーズや課題に応じた個別化されたマーケティングと営業アプローチを行う手法です。そのため、ABMを成功させるには、1社ごとに深いリサーチやリレーション構築が必要不可欠です。
しかし、エンタープライズ企業をターゲットにABMを実施する場合、数百社を同時に進めることは現実的ではありません。例えば、1人の営業担当者がABMに注力できるアカウント数は10社程度が限界ではないでしょうか。これは以下の理由によります
リソース不足 ABMには詳細なアカウントプランやリレーションマップの作成が求められます。これらの作業は非常に手間がかかり、特にエンタープライズ企業の場合、ターゲット内でのキーパーソン特定や関係構築にも時間を要します。
信頼関係の構築 エンタープライズ営業では、表面的な提案だけではなく、信頼関係に基づいて内部課題を拾い上げ、プロジェクト化する必要があります。このプロセスは年単位で取り組むものであり、数百社を同時に進めるのは不可能です。
提案作成とフォローアップの負担 個別化された提案やプロジェクト化に向けたフォローアップは、1社あたりの負担が大きいため、一気に多数のアカウントを進めることは難しいでしょう。
エンタープライズセールスをグラデーションでとらえる
エンタープライズ企業への営業を考える際、重要なのは「優先度を分けること」です。日本国内の上場企業は約3,000社あり、その中でもターゲットとなるアカウントは数百社以上に及びます。これらの企業に対して均一にリソースを配分するのではなく、以下のようにグラデーションでとらえるアプローチが求められます
Tier1(最優先アカウント)
数十社程度に絞り込み、営業担当者がアカウントプランを作成し、深いリサーチと信頼構築に集中します。Tier2(優先度中程度のアカウント)
セミカスタムのアプローチを採用し、効率的かつ効果的にパイプラインを創出します。この層では、BDRがリサーチや初期接触を主導し、営業担当者がフォローアップを行う形が理想です。Tier3(ポテンシャルアカウント)
マスアプローチが可能な範囲で、メールやSNS、イベントを活用しながらリード獲得を目指します。
このように、ターゲットアカウントを層別化し、優先度に応じてリソースを最適化することで、効率的にパイプラインを最大化することが可能になります。
エンタープライズBDRとの理想的な連携
エンタープライズ営業において、BDR(Business Development Representative)の役割はますます重要になっています。特にABMを効果的に進めるためには、営業担当者とBDRの明確な役割分担が必要です。
ABM対象アカウントへのサポート
ABMの対象となるTier1アカウントでは、営業が追いきれないリサーチ業務や、内部課題の発見をBDRがサポートします。具体的には人事異動や新製品リリース情報の収集 現場クラスの商談一次対応 タスク管理や進捗レポート作成これにより、営業は商談化やクロージングに集中できる環境が整います。Tier2以下のアカウントへのアプローチ主導
ABM対象外のアカウントに対しては、BDRがリード役を担い、決裁者への一本釣り型アプローチを実行します。この段階では、手紙営業やSNS、電話を組み合わせたマルチチャネル戦略を駆使し、パイプライン創出に貢献します。オフライン活動でのリード獲得
マーケティングチームと連携し、展示会やイベントでのリード獲得もBDRの重要な役割です。ここで得たリードをセールスチームに引き渡すことで、商談の可能性を広げます。
まとめ
エンタープライズ営業=ABMではありません。ABMはあくまでターゲットアカウントの一部に対する深掘り型アプローチであり、全体の営業戦略の一環として位置づけるべきです。そのためには、ターゲットアカウントを優先度ごとに層別化し、リソースを適切に配分することが不可欠です。
さらに、BDRと営業担当者の連携を強化することで、リサーチや初期接触から商談化、クロージングまでの一連の流れをスムーズに進めることができます。
効率的かつ効果的なエンタープライズ営業を実現するために、ABMを中心に据えつつも柔軟な戦略を取り入れることが求められる時代です。
ロゴトルのサービスはTier2以下のセミカスタムアプローチも得意としており、営業やBDR社員の方のリソースを最大限ABMに活用するためのご支援が可能です。