ヴァージニア・ウルフの「池の魅力」(The Fascination of the Pool)という短い作品を読んだ。
僕のなかでウルフの文学は水のイメージと強く結びついている。意識の「流れ」というメタファー自体が水のイメージを前提としていることはもちろんだが、それは『波』や『灯台へ』といった作品を構成する重要なエレメントでもある。彼女が生涯を閉じたのも水の中だった。
これはウルフの作品の魅力そのものの説明でもあるだろう。「書かれたこともなく、口にされたこともないそれら」。それをウルフは敢えて言葉にすることを試みた。「人生がここに立ち止まりますように」という願いを込めて。
ウルフは、僕たちが言葉にすることのないままに感覚しているもののなかに人生の重要な一側面を見い出す。それを異質な次元の言葉で書くことによって、僕たちの前に人生を立ち止まらせるのだ。彼女は言葉になる前の言葉を書くことのできる稀有な作家だったのである。