「普通」を求めて。
君は普通の人だ。少なくとも、私にはとても普通の人に見えていた。
悪い意味ではない。
私は、君のその普通さが気に入っていた。
相変わらず「普通」というものは難しい。
子どもの頃から「変わってるね」といわれ続けてきた。いわれ続けると洗脳状態になる。
「あ、私は他の人とは違うんだ。」
と。でも、何がどう他の人と「変わってる」のかよくわからない。今もそう。
定義の定まっていない不明瞭な「普通」を目指している自分はいる。
普通になるためには、まずは教養が必要だ。常識人であり、普通にいろんなことを知っている方が良さそうだ。
普通になるためには、料理も洗濯もできた方がいいな。
普通になるためには、パソコンもカメラもできた方がいいな。
普通になるためには、流行には敏感な方がいいな。みんなが好きな映画やオススメの本、音楽、展覧会にはできる限り参加したほうが良さそうだ。
普通になるためには、運動もできた方がいいな。
普通にアルバイトもして貯金した方がいいな。
普通になるためには、あと何が必要だろう。
あ、普通に人を好きになったり、愛したり、愛されたりしたほうがいいな。
そこに突如として現れたのが君だった。
君は極めて普通だった。
勉強も、運動も、趣味も、ルックスも悪くない。一人暮らしも長く、家事全般がだいたいできる。話もおもしろい。
普通に優しくていい人だった。
君がある日の夜、聞いてきた。
「あなたは、僕のどこが好きなの?」
間髪入れずに答えた。
「平凡で、普通なところだよ」
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「どういうこと?僕は [私] にとっては普通なの?」
と君。
「普通だよ。とってもね。でも、そこがいいの」
と笑顔で答える。
しかし、なぜか、君は悲しそうな顔をしている。
はて、私は何か気分を害することでもいったのか?
全く理解ができずに、フリーズする私。
私が君を普通だと思う所以を話す。
すると、君は自分の趣味について話す。「こんなに普通じゃないよ」と言わんばかりに。周りには「普通じゃない」と評価されているらしい。
でも、私にとってそれは「普通の範囲に収まった事柄」だった。
特に「変わったこと」とは認識できないということを話す。
そして、私は、君が持っているような、「普通さ」が好きで、うらやましく思ってることを伝える。
しかし、君はひどく落ち込んだ様子だった。
普通を求めていた私。
普通が何かはわからないけど、ずっと普通を探してきた私には、君はずいぶん普通に見えた。君は「普通」と言われて嫌かもしれないが、その普通さが私は欲しかった。
というか、普通って言われるのはそんなに嫌なことなのかな。
普通っていいじゃん。
普通になりきれなかった私には、その普通さは羨ましいのに。
「普通」を求めて。