学生起業で選んだ「物流×アルゴリズム」にかける想い #01 【株式会社オプティマインド代表取締役社長 松下健】
ロジ人では物流テック(LogiTech)と分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。今回はスタートアップ界でも有名な起業家である株式会社オプティマインド代表取締役社長の松下さんに、学生起業の際に物流業界を選んだ理由をお話いただきました。
アルゴリズムを本気で、学生起業の挑戦
ー いつも松下さんのTwitterを拝見しています。経営に関するツイートが伸びていますよね。参考にしている方も多いのではないかと思います。まず、なぜ起業という道を選んだのかについてお聞きしてもよろしいでしょうか。
ありがとうございます!そうですね、元々起業を考えていたわけではなかったです。大学1年生で出会ったアルゴリズム※に魅了されて、結果的に起業することを決めました。
アルゴリズムの勉強は研究までしていて、当時は大手空港会社がIBMと組んで、CAさんとパイロットが空港に行き着いてから自国に戻るまでの計画を作るのを、アルゴリズムを用いて何千億もの費用を削減していたんですね。その時に「数3Cとかじゃなくて世の中のためになる数学ってあるんだ」ってことに感動したんです。それを実社会に活かしたくて研究室に入りました。でも研究って、研究のための研究なんですね。データセットがあって前提条件があって、それが現実社会に活きてるって手触り感がなかったので、自分でテレアポして、農業や製造業の企業さんをまわりました。
とある物流会社の社長に「アルゴリズムの最適化を使えませんか」という話をした結果、「本気でやるなら会社を起こすべき」と言われたんです。「会社起こすってなんすか」からのスタートで、とりあえず起業しなくちゃいけないらしいってことで会社を興しました。アルゴリズムを世の中に活かしたい、活きるはずだと思った時に、手段として起業が出てきたという感じです。
ー すごい…!いきなり会社を興すハードルって高くなかったですか。
そうですね。僕の場合、全てを投げ捨てて起業したわけじゃなくて、学生起業だったので。極端な話、辞めたら学生に戻るだけだったし、生活費も5万円ぐらいあれば生活できるし、バイトでなんとかなるじゃないですか。なのでそこのリスクは低かったです。当時は「覚悟決まってない」「二兎を追っても二兎を失う」などと言われたんですけど、こういう時代なので、ある程度リスクヘッジしたからこそ一生懸命できることってあると思うんです。なので僕は学生起業とかで大学やめる必要はないと思ってる派ですね。
ー とはいえ学生起業もハードルはそれなりにあると思うのですが、幼少期からチャレンジ精神旺盛な性格だったのでしょうか。
僕、実は昔から優等生キャラで(笑)。大企業に行く気満々だったんですね。両親も金融機関で働いていて真面目にちゃんと就職しなさい、という考えだったので、僕自身起業したいタイプではなかったですね。
宅配クライシスから知った物流の現状
ー 不随する質問なのですが、なぜ物流業界を選ばれたのかが気になります。
そうですね。これ多分書けないですけど、業界に飛び込んでみて5年経ちますが、なんでこんなディープな業界に飛び込んだんだろうと思っています(笑)小早川さんの前でそんなこと言っちゃいけないですね、飛び込みたての人に(笑)
僕は業界に入って5年経ちますが全然新人感があるので、深いという意味でなんですけどね。アルゴリズムの研究をしてた中で、宅配クライシス※のニュースが取り沙汰されたのが2017年でした。ドライバーさんが荷物投げてるとか、「オラ」って叫んでるのを見て、物流業界はこんなに激しい労働環境で働いていることを知りました。同タイミングに、今オプティマインドのアルゴリズム分野のエンジニアをしてる高田と出会いました。高田がルート最適化を専門として強みとして持っていたので、僕から見たときには若干打算的ですけど、ルート最適化に強いエンジニアが来て、社会課題として物流クライシスが起きて、それを解決してる人はまだいなかったので、課題と強みがマッチしたんです。そこ(=現場の課題と技術)の架け橋を元々やりたいと思っていたので、物流業界に決めました。農業や製造など色々見た上で、課題が大きいかつ僕たちの強みが発揮されそうな業界が物流だった感じです。
アルゴリズムを活かしたプロダクト
ー 御社のサービス「ルージア」はどんなプロダクトなのか教えていただけますか。
ルージア※はいわゆる配車システムと言われています。簡単に言うとラストワンマイルの配送事業者さん向けに配車計画の作成支援みたいなことを提供しています。詳しく説明すると、例えば「受注した荷物が200個あります。今日はドライバーさんの稼働人数は30人で、2トントラックが30台あります」という時、どの荷物をどのトラックに積んで、どの順番に配送するのが効率が良いというのを地図上に作成しているんですね。それをアルゴリズムで最適化するというプロダクトです。
これは一見シンプルに見えるんですが実はとても難しいんです。時短勤務のドライバーさんがいたり、時間指定のあるお店があったり、様々な条件が現場の人の頭の中に入っていて。その条件を1個1個吸い上げて数式に落とし込んでアルゴリズム開発をしてお客さんにあてて、指摘されたことを再度チューニングしてってことをやっています。泥臭くも深いことをやっているプロダクトです。
ー 属人化している部分にアルゴリズムを入れるのは、とても難しそうです。今ルージアはどのくらい利用されているのでしょうか。金額体系も教えていただきたいです。
今、累計で150社くらい入ってますね。大手さんから中小までご導入いただいています。金額については、拠点ごとにいただく体系をとっています。
ー なるほど、拠点ごとになるのですね。もう一点お伺いしたいです。最適化するためにルージアを導入したいと考えているお客様の中にはデータがない方がいらっしゃったり、配車マンの頭の中に全て入っているケースも多いと思うのですが、その辺りはどのようにヒアリングしているのでしょうか。
現状はデータがないお客様については、正直お断りさせていただいています。なぜお断りしているかというと、お客様の住所や、お客様に対する時間指定のデータがないケースが結構多くて、その場合はもう手も足も出ないんですよね。例えば、△△運輸に納品するとして、△△運輸〇〇営業所の××センターまで書いてあれば良いんですけど、大体の場合が「△△運輸」しか書いてなくて、本社の電話番号しか入ってないんですよね。でもドライバーさんがそれを見て「あーあそこの土地だな」ってわかるのですけど、データとしてはない、みたいな状態があると、どうしてもやっぱり出来ない。なので、現状データがないお客様はお断りしていますが、最近では全体的にIT化が進んでいることもありだんだん減っていると感じます。
ー 今後は益々IT化が進んで、最適化がより進みそうですね!
荷主の得は、運送会社の損か
ー 少し話は変わるのですが、物流業界に入ってみて、業界の特殊性ってどんなところにあると思われますか。
(業界が)深すぎますね。物流業界における配送の「理想の状態」は、私の意見ですが、自動運転が実現していて、ドライバーさんがいるかいないか分からない状態で高速自動運転が実現された世界だと思うんです。ただ、そんな世の中はおそらく来ないし、理論的には理想でも豊かな社会にとって理想とは言えない。
その中で、物流業界の特殊性としては、良くも悪くもステークホルダーが多いんですよね。一個の荷物を配送する際も、ステークホルダーには配送会社の経営者さん、センター長、ドライバーさん、受注元の発荷主さんがいます。かつ着荷主側(荷物を持っていく側の店舗)の店長さん、オーナーさんとスタッフさんがいて、倉庫側にも働いている方々がいて。…もうステークホルダーだらけなんです。なので、あるべき論でルート最適化してコスト下げますって言っても、コストを下げることは誰かにとっては嬉しいけど、誰かにとっては嬉しくないみたいな状態が起こり得るんですね。その矛盾をどう全体最適にしていくかっていうのがやっぱりとても難しいのですが、やりがいがあるところですね。
ー 全体最適を追求するのは大変そうですが、やりがいがありそうです。全体最適を追求する時に起こる課題は、どのように解決するんでしょうか。
例えば某荷主さんは、カーボンニュートラルの文脈で「ルージア」を導入していただいているんですけど、自分たちで配送しつつ、委託してる物流会社さんとの関係性があるので、荷主さん側はコスト削減できても、運送会社さん側は売り上げが減ってしまう、という関係性を抱えていらっしゃるんですね。そしたらルージアの費用をかけて、年間削減がたとえば1000万でした、運送会社さんからすると1000万円売上が減りますというふうになってしまう。でもルージアを使って配送するのは運送会社さんとなると、運送会社さんにとってメリットが無いじゃないですか。
そういうところが難しい事例だったんですけど、今回はうまくいったんです。なぜかと言うと、結果として一部の仕事が浮いたところで、追加の仕事をマッチングしましょうというように、ポジティブな思考で二社がすすめて下さったからです。この運送会社の社長さんも、「これは俺たちがやるべきことだ」と仰ってくださって。浮いたら他の仕事取ればいいし、その方が本質的だよねっていうのを理解してくれる方でした。いわゆる荷主と物流がうまくはまったんですよね。なかなか最初はそうはいかないんですが。
<取材・編集:ロジ人編集部>
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