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95%に改善の余地、物流自動化の実情 #01 【ラピュタロボティクス株式会社代表取締役CFO クリシナムルティ・アルドチェルワン】

ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。今回は、ラピュタロボティクス株式会社の代表取締役CFOクリシナムルティ・アルドチェルワンさん(以下、アルルさん)にインタビューをしていきます。#01では、物流業界でロボット化を進めるべき理由についてお聞きしていきたいと思います。

▼クリシナムルティ・アルドチェルワン氏
ラピュタロボティクス株式会社、代表取締役CFO。東京工業大学にて制御・システムエンジニアリングの学士号を取得。コロンビア大学にて経済数学修士号を取得。2010年、野村証券にてエクイティデリバティブのアナリストとして勤務後、​​2013年にはグローバルマクロヘッジファンド「FUND OF TOKYO」の共同創業者兼CIOを務める。2014年に共同創設者である代表取締役CEOモーハナラージャー・ガジャン氏と共にラピュタロボティクス株式会社を設立。


1日に約20キロ歩く倉庫内作業の負担を軽減

ー まず事業内容について教えていただけますか。

我々の会社は2014年に設立しました。元々はロボティクス向けのプラットフォームを提供する会社として誕生し、現在ではプラットフォームを応用したロボティクスソリューションを提供しています。

しかしながら、ロボットはまだ広く普及しているわけではありません。そのため、まずは我々が目指している少し手前の世界観を作り、皆さんにロボットをより便利で身近に感じてもらう必要性を感じています。

そこで今我々は物流業界に注力し、自律走行搬送ロボット「ラピュタPA-AMR」の導入を推進しています。倉庫内作業のピッキング工程をアシストし、ロボット導入後の生産性を約2倍に向上させることに貢献しています。

例えば今まで10人の作業スタッフがピッキングをしていた場合、5人以下で対応できるようになります。もしくは10人で2倍以上の生産性を出すことができます。お客様のニーズに応じて、どのようにロボットを使っていくかを調整しながら進めていきます。

ピッキングは人にとって、一番負担がかかる作業です。ピッキングスタッフは一日で約20キロ歩いているといわれます。

我々のロボットが人の代わりに搬送を担い、作業スタッフの歩行距離を半減できることに、社会的意義があると自負しております。

インタビューの様子1

近い将来、人の手の動きを担えるロボットも

ー 作業人数に対して何台のロボットを入れるのでしょうか。

5人の現場に10〜15台を導入するのが、基本的な考え方です。実際に10〜15台のロボットを入れる現場が多く、平均して一人当たり2〜3台のロボットが割り当てられます。


ー 人よりロボットの方が多いですね。

そうですね。まだロボットは人が行っているすべての仕事をまかなえません。人の動きの3分の1の価値しか出せないのが、ロボットの現状といえます。

弊社のロボットも柔軟に歩き回ることはできるのですが、まだ腕の機能がないんですね。つまり「モノを取って入れる作業」は人がやらなければなりません。

人の体で例えると、下半身を使う仕事(搬送)は人よりロボットの方が優秀です。しかし上半身を使う仕事(ピッキング)は、まだロボットには難しい。なので、現状は人がサポートする必要があります。


ー 将来的には、人でいう上半身の方もロボットが担うようになるのでしょうか。

そうですね。実は我々が設立した2014年には、ロボットの下半身の方もうまく動かない段階でした。その頃、一番の課題は自己位置推定や認識技術の乏しさ、つまり「ロボット自身、どこにいるかがわからない」ことでした。

いろいろなテクノロジーを試す中で、SLAM(スラム)と呼ばれる自己位置推定と環境地図作成を同時に行う技術が2017年頃から普及し、ロボットが自分の位置情報を認識できるようになりました。

それと同じようにロボットの上半身(ロボットアーム等)の部分も、急激に技術が進歩しています。

現状、人間のようになんでもできるロボットはまだできていませんが、近い将来、ロボットの上半身の部分も十分に活用できるようになっていくと思っています。

インタビューの様子2

ー 私自身、物流業界に携わる中で、どちらかといえばスポットの当たりにくい業界かと感じています。アルルさんが日本で物流に携わり始めた背景をお聞かせいただけますか。

まず日本に来たきっかけは、ロボットがとても好きだったことです。

日本は世界一のロボット技術を持つ国だったため、共同創設者のガジャン(代表取締役CEOモーハナラージャー・ガジャン。以下、ガジャン)と一緒に留学をしていたという背景があります。

日本の大学の中でもロボットの制御を学べる学校は限られています。我々が入学したのは、その中でも有名な東京工業大学でした。

東京工業大学卒業後、私はコロンビア大学へ進学し卒業後は、日本の金融業界にてキャリアを積んでいきました。一方ガジャンは、ロボットをさらに詳しく研究するべく、スイス連邦工科大学チューリッヒ校へ進みました。


ー なぜアルルさんはロボットではなく、一度金融の道に進んだのですか。

大学で勉強するときに、自分でもロボットを作ってみる機会がありました。そこで明らかに自分でロボットを作るのは向いていないと感じたんですね(笑)「このままではまずい」と思ったのが本心です。

ただ制御理論や数学は好きだったので、大学の先生と相談して金融の道に進みました。これは面白いなと思いましたね。

コロンビア大学に行き、経済数学の修士号を取得しました。ところが金融は紙の世界。実物のプロダクトは何もありません。

その後ガジャンと日本の学会で偶然再会し、ガジャンが開発したロボットを見たときに、ロボティクスの技術がすごく進化しているのを目の当たりにしました。

「これは自分の時間を使って広めるべきものだな」「ロボットを使って、もっと社会の役に立てるのではないか」と感じ、会社を設立したのが経緯です。

実は会社を設立したときは物流についてあまり詳しくなかったんです。ニーズを探りながら「テクノロジーを活用して、どうやって世の中に貢献できるか」をずっと考えてきました。なので最初は様々な業界向けのプロダクト作りに挑戦して、たくさん失敗しました。

インタビューの様子3

潮流を読み、強みを生かした物流業界での躍進

ー 初めからすべてがうまくいった訳ではないのですね。

はい。試行錯誤しながらたどり着いたのが物流業界です。

我々の最大の強みは、郡単位でロボットを制御できる「群制御」という技術を有している点にあり、技術との親和性が高い物流業界へ参入することを決めました。

物流現場ではたくさんの人が働いています。例えば30人、50人規模の人が協働しているのであれば、ロボットを活用した場合も、同じようにロボットたちが連携して動く必要があると考えられます。

そこで我々の技術「群制御」が活かせるのではないか、という発想に至ったことが物流に携わっているひとつの理由です。

同じように製造現場でもたくさんの人が働いていますが、実はすでにロボットによる自動化が進んでいるんですね。製造業界にロボット導入が進んでいる理由は、製造工程に対する技術の方が物流よりもシンプルだからです。

工場ではある一定のモノしか扱いません。そのひとつにフォーカスすればよいので、自動化しやすい面があります。

一方で物流倉庫は様々なモノを扱います。小さなモノから大きなモノまで。全体を自動化するのは、なかなか高度な技術です。なのでよくも悪くも、半世紀以上、物流倉庫の自動化はあまり進んで来ませんでした。だからこそチャンスも大きい

今まで自動化が進んでいないからこそ、我々のテクノロジーでオートメーションを進めていきたいですし、我々の技術と現場のニーズを考えたときに、非常に大きなポテンシャルがあると感じています。

インタビューの様子4

物流業界に携わっているもうひとつの理由は、Eコマースが進み、EC市場が伸びていることです。店舗に行って買い物をするのではなく、アマゾンのようなネットショップで買い物を済ませる人が多くなってきました。

つまりどんどん店舗が必要なくなり、倉庫が必要になってきていることを示しています。今まで店舗にあったモノが、倉庫からそのまま個人宅へ配達されるからです。

さらにいえば、Eコマースの進展により物流のオペレーションがどんどん複雑になってきています。

今までは店舗だけに送ればよかったところ、直接自宅に届ける必要も出てきたので、2つの配送オペレーションを回さなければなりません。

非常に複雑かつ大変であり、人力で行うには限界があります。現場においても、積極的に自動化を取り入れ始めたタイミングでもありますので、「これから」の業界だとみています。


ー 貴社のプロダクトと業界の潮流がマッチしたということですね。

はい、そうですね。世界の95%の倉庫はまだ人力で稼働しています。

皆さんの中には、もっと自動化されているイメージがあるかもしれませんが、まだ物流には市場の 95% に改善の余地があるんです。なので、まだまだ成長できる魅力のあるマーケットだと感じています。

<取材・編集:ロジ人編集部>


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