日本のコロナ対策は成功しているのか?
「不可解な謎」という不可解な記事
2020年5月26日の朝日新聞デジタルに、「不可解な謎――欧米メディアが驚く、日本のコロナ対策」という不可解な記事が出た。
冒頭に掲げられているのが、次のグラフである。
この記事は「日本はG7で、10万人当たりの感染者数が13・2人で最も少なかった。一方、検査数も最少の212・8件で、最多のイタリアの約4%だった」と説明している。まず、ここまで「検査数」が異常なほど少なければ、その検査によって発見される「感染者数」も異常なほど少なくなるのは、ごく自然な現象だろう。これほどまでに検査数を抑え込んでいる日本の方針に対しては、数多くの海外メディアが、根強い批判を繰り返している。
たとえば、5月25日付の『ワシントン・ポスト』紙は、日本では、①感染検査数の割合が非常に少ないため「見逃されたケースが多数ある」こと、②安倍晋三首相の「初期対応に不手際があった」ことを批判している。そのうえで、日本で爆発的な感染拡大が生じていないことを「不可解な謎」だと述べているわけである。結果的に、日本がウイルスを封じ込めている理由として、『ワシントン・ポスト』紙は、「政府の命令や法的制裁ではなく、自粛要請や社会的な同調圧力に基づく日本独自のアプローチ」のおかげではないかと解説している。
そもそも、欧米人の多くは、個人の自由を制限されることを非常に嫌がる。だから、欧米メディアが、日本人は「政府の命令や法的制裁」が課されなかったにもかかわらず、ゴールデンウィーク中の外出を「自発的」に控えたことを「不可解な謎」と呼んだわけで、それが「日本のコロナ対策が成功していること」を直接意味するわけではない。まさか朝日新聞記者が誤訳や曲解はしないだろうが、この記事のタイトルと結論には、整合性がない。
というのは、この記事で注目しなければならないのが、「アジア・オセアニアの主な国・地域の10万人あたりの死者数」では、日本が最多の「0・64人」だという結論だからである。この数字は、初期対応で徹底的な水際対策をとった台湾の「0・03人」と比べると、圧倒的に多い。日本の10万人当たりの死者数が、すでに発生源の中国の2倍に達しているという事実から考えても、残念ながら「日本のコロナ対策が成功している」とは、とても考えられない。要するに、この記事は、タイトルと結論が矛盾しているのである。
もちろん私は、日本のコロナ対策に携わっている感染症専門家諸委員や、最前線の医療機関で人命救助に尽力されている医療関係者諸氏の努力を尊重し、深く感謝している。しかし、その成果が事実上の「成功」なのか否かは、論理的および科学的に検証・評価されなければならない課題である。
世界から見た日本の状況
「新型コロナウイルス」については、さまざまな情報が錯綜しているが、「最も信頼できる情報源の一つ」として「Worldometer」というサイトを私が参考にしていることは、次の記事で述べたとおりである。
このサイトによると、2020年5月26日16時現在の世界における新型コロナウイルスの感染者数・死者数・回復者数は、次のとおりである。
世界レベルのグラフで見れば、感染者数も死者数も、いまだに増加の一途を辿っている。
感染者数順に世界各国を並べると、日本は第40位に位置している。その周辺の世界各国の詳細データは、次のようになっている。
イスラエルと日本とオーストリア
日本の近傍に位置するイスラエルとオーストリアは、日本と感染者数が非常に近い16,000人レベルである。その3カ国を比較した次の表を見てほしい。
感染者数がほぼ同じ3カ国の中で、日本は他の2カ国に比べて、死亡者数と重症者数が圧倒的に多いことがわかるだろう。その原因については、感染者の年齢層や集中治療室の人工呼吸器数の相違など、さまざまな要因が考えられるが、いずれにしても、一旦コロナに感染したら、近隣2カ国よりも日本の方が生命の危険度が高いと考えられるわけである。
一方、100万人あたりの死亡者数になると、他の2カ国が二桁であるのに対して、日本は非常に少ない一桁に収まっている。しかし、日本の人口はイスラエルとオーストリアの約14倍だから、仮に日本の検査数を14倍にすれば、100万人当たりの検査数は 48,188人となって、他の2カ国と並ぶ正常な数字になる。そのとき、感染者数と死亡者数は、どう変化するだろうか?
改めて、落ち着いて考えてみよう。「日本のコロナ対策が成功している」と断定できるのだろうか?
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