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EC物流奮闘記~物流エンジニアのお話 : Episode 7

物流の事を何も知らない人がEC企業に入社し、様々な経験をし、物流エンジニアとして、奮闘するお話です。


#1-7 : 開発機は、楽しい? 苦しい?

設備増設計画の中に新開発の装置を導入する計画が持ち上がりました。当然ながら、その開発現場に参加するように指示が下るのでした。

新開発される装置の機構や仕組は、これまでと全く異なったもので、青写真では、その機構すらわからないが、最終的にやりたいパッケージ仕様は、わかるという代物でした。

開発期間

開発期間は、実質9か月です。ピークとなるHoliday前に装置を導入して、稼動させるというタイトなスケジュールでした。開発を行う会社とのキックオフに参加し、開発がスタートするのです。

この開発期間は、今となっては、無謀な計画ですが、当時の私は、知る由もありません。うまくいくと信じて、開発に当たらなければなりません。
最初の2か月は、全体設計と主な構造部分の試作です。試作品から様々なフィードバックや検証結果が芳しくなかった部分の修正が入ります。

計画では、3か月目には、全体の組み上げと機構全体のテストを行う予定でしたが、その前段階の修正設計が予想以上に押すことになります。要するにスケジュールの遅延です。この頃になると、設備設計担当がリードしていたこのプロジェクトも別プロジェクトとの兼ね合いから、私がリードする立場に代わっていくのでした。

うまくいかない

全体の組み上げが終わり、全体の動作テストが行えるようになるのは、計画より約2週間遅れでした。動作テストといっても、本当に基本的な動作確認になります。装置としての完成度は、まだまだこれからの状態です。

この基本的な動作確認で、深刻な事態を迎えることになるのです。
干渉やクリアランスの問題が各所で発生し、とても動作できる代物でなかったのです。やはり、フィードバック部分に注力してしまったため、全体動作に対して、どのような影響があるか見極めができていなかったのです。

当初は、開発会社の皆さんも問題のあった部分の改善、改良を行い、試運転を行うのですが、ここをいじるとあっちが壊れるという、いたちごっこが始まってしまうのでした。こうなると開発は、悪循環に陥ります。

計画遅延のプレッシャーもあり、開発現場にも無力感のような空気が漂い始めます。当然、私にも設備設計担当からプレッシャーが。

開発会社幹部さんたちと、どのようにキャッチアップしていくのか話し合いをしていく中で、幹部の皆さんは、「大丈夫です」と言ってくれるのですが、現場の空気感は、十分わかっていたので、ある提案をします。

小さな目標

その提案とは、私が毎日、開発現場に足を運ぶ代わりに、開発に携わっている方、全員とのミーティングを持つこと。
全体の完成度より、各機構の完成度を重視した開発、各機構の開発目標を決め、実行していくことを提案しました。

開発目標は、今、できていない事を細分化し、マイルストーン化することで、最終的に開発目標を達成することでした。

私も毎日立ち合いすることになるのですが、毎日トラブルは、続出します。
今日の目標以外にイレギュラーが発生しても、記録するだけに止め、その点に対して、口出しをするのを控えました。口出しすると、本来の目標が見えなくなってしまうので。

あくまでも今日の目標が達成できたのか、そうでないのかという点のみでフィードバックし、次の日につなげるのでした。

小さな目標、マイルストーンは、些細な目標です。
例えば、10個連続で物を流して、エラーが出ないこと。といった具合です。これを繰り返していき、20個連続、5分間連続といった形で、目標を少しづつ大きくしていきます。10個連続でできた時と20個連続でできなかった時にどういう違いがあったのか、何を変えたら、うまくいったのかを全員で確認していきます。

最終的に目標が達成できるように少しづつ、その数値をその時に達成可能な数値に引き上げるだけです。

毎日16時になると、会社を出て、開発会社に向かう日々が始まります。
そして、帰宅は、日付が替わる頃になります。

少しづつ達成

小さな目標を与えられた開発現場の空気は、どうなったかというと、それぞれの機構担当者が目標達成に向かって、奮闘してくれていました。

毎日、開発会社につくと、担当者がどういうところを改良したのかを説明してくれます。機構や加工精度の説明されても、ちんぷんかんなのですが、熱意は、伝わってきます。

目標もうまくケースもあれば、うまくいかないケースもあります。
特にうまくいかないケースは、同じ目線で何が良くないかを一緒に確認したり、再現確認したりして、問題点の共有と認識を合わせるようにしました。

うまくいかないときは、これが重要だと思います。こんな時は、どうしても、発注側の要求が全面に出がちですが、真因を追求して、原因をつぶす方向性を取らないと、更なる遅延が待ち受けていると思います。

ただでさえ、スケジュールが遅延している状況で、さらに遅延させる方向にもっていっても意味がありません。設備設計担当から何を言われようが、現場第一主義で、プレッシャーを何とかするしかありませんでした。

そんなこんなで、少しづつ目標を達成できるようになり、機構部分の動作に問題が徐々に無くなっていくのでした。次は、鬼門とも言える全体動作確認です。なぜ、鬼門かというと、初期段階の確認で、動かしては壊れを繰り返し、モチベーションが下がった工程だったからです。

数日後、全体が組みあがり、いよいよ動作確認の日がやってきました。

結果は…

初期確認と同じく、動いては、壊れを繰り返す、散々な結果でした。
モチベーション低下を気にしていた私ですが、以外と現場は、良い感じでした。既に小さな目標を達成していることで、どこをどうすれば、故障原因を、その真因を探っているのでした。

その日のミーティングで小さな目標を新たに設定しました。もう残り1か月というところですが、着実に進めていく以外に方法は、ないのです。

そうこうしているうちに残り日数は、減っていきます。できうる対策や対応を進めていただき、10分の連続稼動テストしかできなかった時に、私は、ある提案をします。

「全体の連続稼動テストを3日間に分けて行います。そこで、この装置の評価をします。」と。

連続稼動テストの内容は、今まで達成したことのない内容です。
1つ目の目標 : 15分連続稼動テストでエラー無し
2つ目の目標 : 30分連続稼動テストでエラー無し
3つ目の目標 : 60分連続稼動テストでエラー無し
それぞれのテストで人の補助をつけては、いけない事を条件にします。
壊れそうな時は、担当者の判断により、非常停止で装置を止める(=テスト終了)

無謀とも言える目標ですが、この内容が現場に伝わると一気に緊張感が増します。成否を決めるのですから、当然かもしれません。

この内容は、設備設計担当にも事前に伝えておきました。連続稼動テストをして、実際の現場に導入できるかを判断する材料にしたいと。このテストには、設備設計担当も参加することになっていました。

未完ですが…

そして、連続稼動テストを迎えます。その場にいる全員が緊張した中、テストをスタートします。まずは、1つ目の目標から。既に目標に近い時間のテストは、何度も繰り返してきたため、最初のテストは、難なくクリアしました。それでも、細かい指摘は、出てきますが、一旦は、良しとします。

次は、2つ目の目標です。この目標は、今まで連続動作させたことがない世界です。15分が過ぎ、20分が過ぎ、ついに30分連続での稼動を達成しました。開発に関わった人たちは、歓喜の声を上げ、無事達成できたことを皆、褒め称え、苦労を労っています。私も無事終了したことに安堵しました。

まだ、3つ目の目標が残っています。最終目標です。
2つ目の目標を達成したせいか、開発現場の空気感は、良かったように思います。今までできなかったことに対して、達成したという自信がそうさせたのかもしれません。

最終検証テストがスタートします。30分が過ぎ、40、50分と問題なく動いていたのですが、50分を過ぎたところで、異常が発生し、テスト終了。
残念ながら、目標未達となってしまうのでした。

後日、設備設計担当からとある指示がありました。
完成度は、まだ満たしていないが、取引の都合上、センターに納入すると。

もうすでに11月。Holidayも差し迫っている状況で、苦渋の決断でした。
未完のまま、装置の据え付けが行われることになったのです。

すぐに止まってしまう装置は、現場からは、嫌われます。メンテナンスチームからも敬遠されます。そういう装置を納入することになり、申し訳ない気持ちとやるせない気持ちでの納入となりました。

ただ、メンテナンスチームから「理由は、どうあれセンターに納入されたのだから、引き受けるよ」と言っていただいた時には、なんと言っていいのかわからない位、感謝の気持ちでいっぱいでした。

学んだこと

多くの開発機に携わりましたが、学びもありました。新規開発にせよ、応用開発にせよ、少なくとも3世代の開発試作機がなければ、量産機には、ならないことを学びました。

普通に工業製品で考えたら、ダメでしょと思うでしょうが、1世代で作成するのが、1~数台で、完全オーダーメイドでは、完成度を上げるのにサンプルとして十分ではなく、ノウハウも溜めにくいのです。

私が結果として、開発機に対して、どういう位置づけをしたか、
1世代目 - 設計で見えてこない耐久性や想定していない問題が見えてくる
2世代目 - 対策した結果、設計を見直さなかった部分にも問題が生じる
3世代目 - 全体見直しがされ、想定しうる対策もとれ、安定稼動してくる

うまくいった開発機、そうでなかった開発機を振り返ると以上の考えに落ち着きました。しかし、周囲は、そうとってもらえなかった事も付け加えておきます。

正直なところ、特注開発は、3世代まで作る覚悟と理解をしてもらわない事には、開発に携わる人や業者も含めて苦しいなというのが、感想です。

開発機は、夢もありますが、実際は、モノにするための苦労が絶えないですし、うまくマイルストーンを立てて、進めないと開発現場のモチベーション低下にも繋がることも経験し、どのように最終目標までのマイルストーンを立て、開発現場をどのように鼓舞すればよいのかを学んだと思います。

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