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心配性な私と、ハイパー健康な夫と、子ども達
私は体の弱い子どもだった。
約1500グラムで産まれて死にかけ、喘息と鼻炎とアトピーと結膜炎というアレルギー体質を網羅した。
何かの病気で退院する日、ベッドから落ちて鎖骨を折ってそのまま再入院したこともある。
乗り物に乗るとほぼ酔い、風邪を引けば必ず高熱を出して回復に1週間かかる子。
そんな私も、幼い頃からある夢を抱いていた。結婚して出産して夫婦で育児をする夢だ。
夢は叶い、私は結婚して2人の子どもがいるが、あれほど虚弱体質だった私の血を引く子どもの健康状態は、どのようなものか。
妊娠中も壮絶だったのではないか。
皆さん、そう心配してくださるのではないかと思う。
内気な私が結婚した年齢は、早婚か晩婚かの田舎の中では少し遅い方。だが、第一子の妊娠は結婚から半年後だった。
子ども時代の体の弱さを思えば、順調ではないだろうか。
妊娠経過も良かったと思う。
つわりは、常に眠気に苛まれたことと和食が受け付けなくなったこと程度で済んだ。
第二子の妊娠経過はさらに良い。眠気つわりは無かったし、膨満感がある程度で何でも食べることが出来たからだ。
ただ、2度の妊娠中どちらでも、風邪を引いて高熱を出してしまったことがある。
「胎児は熱に弱い」と妊婦雑誌で読んでいたので、熱に浮かされながら心は不安でいっぱいで、
「私の赤ちゃん助けて!」
と泣きながら病院に駆け込んだ。
だが、エコーに映った胎児は元気に手足を動かしており、看護師さんにも
「元気だよ〜。」
「動いてる〜。可愛い。」
とお墨付きを貰うことが出来た。
第一子の時も第二子の時も母体が熱を出してもそんな調子で、心配をよそに、お腹の中で元気いっぱいに成長したのだ。
「体の弱い私の妊娠中なんて、トラブルだらけなのでは…。」
と思っていたのに。
出産も、助産師さんによると安産で、出生直後の新生児の健康状態を評価するアプガースコアは第一子が9点。第二子は満点の10点だった。
子ども達の健康エピソードはまだ続く。
何より驚きつつも有り難かったのは、2人とも熱痙攣も突発性発疹も無かったことだ。
特に突発性発疹は「0〜2歳の乳幼児のほぼすべてが罹る」と言われているので、意外だった。
喘息や結膜炎といった私のアレルギー体質を少々受け継いだり、インフルエンザや溶連菌感染症に罹ったことはある。
だが、それを差し引いても私と比べるとあまりにも健康過ぎる。おかしい。
この間、夫とそれについて話していた時に、彼の放った一言でようやく納得することが出来た。
「まぁ、俺がハイター飲んでも平気なくらいだからなぁ。」
「!!!」
そうだった。
10年以上の付き合いの中で当たり前になりすぎて忘れていたが、夫はとても体が丈夫だ。
例えば結婚式の前日に高熱を出してしまった時、彼は熱を下げるべく、こんな荒療治をした。
まず、熱いうどんか雑炊を食べる。
次は、普段はカラスの行水なのに、熱いお風呂に浸かって思い切り汗をかく。そして、お風呂から上がったら2リットルのポカリスエットを飲み干すのだ。
だが、高熱を出したら3日は熱が引かず、本調子になるまで1週間かかる私には、これで熱が下がるとは到底思えない。
「…明日の朝まで様子を見て、最悪結婚式はキャンセルかな…。」
と、ひとり覚悟を決めていた。
そんな私の気持ちとは反対に、翌朝、彼の熱はすっかり下がっていた。36度台。まぎれもなく、平熱だ。
驚きつつも、これで招待客の皆さんの前に出られる。私達は安堵して式場に向かった。
新郎としての責任ゆえの気力で乗り切ったところもあったと思うが、結婚式の間、ずっと夫は笑顔で過ごすことが出来た。
挨拶もしっかり行い、彼が昨晩まで高熱を出していたことは誰も気付いていない。
「私が体が弱いから信じられないだけで、普通の体力がある人は、こんなに早く、熱から回復出来るもの…?」
と調べてみたことがあったが、早くても2、3日はかかるという。
そういえば、先月は次女が、今月は長女がインフルエンザに罹ったが、2人ともタミフルを飲んだ翌日に高熱が引いていた。
次女など、発症当日は10回以上吐いて、水分が摂れているのかハラハラしていたくらいだったのに。
熱からの回復の早さからしても、やはり夫の丈夫な体が遺伝したのだろう。
だが、いくら夫が健康体過ぎるといっても、「ハイターを飲んだ事件」はあまりにも衝撃的だ。
まだ私と知り合う前。施設職員である夫はある日、ペットボトルに透明な液体が入っているのを見つけ、
「これ、何ー?」
と言いながら、口をつけずに飲んだらしい。
すると、口の中にとてつもない不味さが広がった。
その場に居た同僚に
「ウェーっ。何、これ?」
と訊くと
「ん?ハイター!…え。飲んだの?!」
と返ってきたという。
そのペットボトルは、利用者が噛んだりしても良いように、希釈したハイターを入れて消毒していたものだった。それを夫は飲んだのだ。
すぐに吐き出せばまだ良かったが、彼はその時もう、ハイターを飲み込んでしまっていた。
「大丈夫なの?!!」
「あー、大丈夫、大丈夫。」
夫はケロッと答えたらしいし、その後も妻の私から10年以上見たところ、健康被害は出ていない。1番ダメージを受けそうな喉にも異常は出なかった。
初めてその話を聞いた時は驚愕したが、その波が去ると今度は呆れ果ててしまった。
そもそも何故、正体不明の液体を口に含むのか。しかも、一旦口に留めず飲み込んでしまうのか。
彼の危機管理意識に疑問を持ちつつも、そこは心配性な私がこれからもカバーしようと誓った。私の場合、少し神経質過ぎるかもしれないが。
何にせよ、私の血を引くにもかかわらず、子ども達が健康でいられるのは、夫の頑強な体質のおかげだ。
神経質で心配性な私は、我が子がこれほど元気でなくては、親としてのキャパシティを超えて病んでいたかもしれない。
そして夫が大らか過ぎて危機管理意識に不安がある分、私の心配性が活きる。私達夫婦はきっと、「割れ鍋に綴じ蓋」の極致なのだ。
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