桐壺登場 その二十七 夢見がちな彼の恐ろしい一面を語る
その二十七 夢見がちな彼の恐ろしい一面を語る
この日も藤壺の宮は几帳の影に身を隠していました。感情はもちろん、呼吸さえも隠しています。さすが生まれながらの内親王です。そこへ帝がこうおっしゃいました。
「そう、お避けにならないで。本当によく似ているのだから。並んでいると、とてもお似合いですよ。仲良くしてあげて下さいね」
そう。すべてはそういうことだったのです。
天皇親政。
ああ、私は藤壺の宮に似ている。いや、藤壺の宮は私に似ている。だって私は皇太子妃にと望まれていたのだから。私も彼女も、先帝系統にいる女。これが衝撃①の答え。
でも先帝系統の未来は失われてしまった。何故?誰のせいで?あいつ等のせいで!ああ、これが衝撃②の答え!
(衝撃①②って何のこと??っていう方は、「その二十五 藤壺入内の場面を読んで感想を語る」を見てみて下さい。)
?
天皇親政?
あいつ等の?私たちの?
これは国政の話?家族の話?愛の話?
(愛?)
あの時の、あの人の歌が再び聞こえてきます。
「訪ねゆく幻もがなつてにても魂のありかをそこと知るべく」
覚えていますか。
帝はあの時から、このおぞましい計画を目論んでいたのです。そして淡々と実行したのです。
私の比翼の鳥、連理の枝…。夢ばかり大きくて私がいないと何もできなかった弱虫で泣き虫の彼が…。ああ、何という残虐非道な御方であったことでしょう。
こうしてあの恐ろしい御方に並べられたこの九歳と十四歳の二人を世の人々が、
ひかるげんじのきみ
かがやくひのみや
と呼んでおりますことは、皆さんご承知でございましょう。
私たちは女で、真名を無闇に使うことを許されず、ただ、仮名で物語を書くばかりですが、でも。真名で書いてみて下さい。
光源氏の君
輝く妃の宮
妃の復活です。
本来、妃が並べられるのは帝王です。しかしここで並べられているのは光る君です。そしてそれをしたのは帝です。つまりはそういうことです。それを世の人々はワーワーキャーキャー白昼堂々、口にしているのです。当の帝も得意げなのです。
いえ、ここに一人、面白くなさそうなお人がいます。
弘徽殿女御です。
それはそうでしょう。彼女にとって光る君は、それはそれは可愛い可愛い実の息子も同然の超絶美形皇子様なんですから。それが後からやってきた十四歳の反則女にとられちゃったんですから。
あれ、ちょっと待って。
何これ。
これが弘徽殿女御なの?
え、どんな弘徽殿女御かって?
それはとても口では言えないくらいの。