短編小説 函館編
悠馬は函館の駅に降り立ち、広がる港町の風景に静かな期待を感じていた。異国情緒あふれる街並み、坂道を登ると見える海。少しひんやりとした風が頬をかすめ、この場所が持つ独特の雰囲気に心を奪われた。
まず足を運んだのは、地元の活気が感じられる朝市だった。観光客や地元の人々が集まる市場には、新鮮な魚介や色とりどりの野菜が並んでおり、どこか温かみを感じさせる場所だった。悠馬が目に留めた鮮やかなイカを眺めていると、売り子の男性がにこやかに話しかけてきた。
「お兄さん、函館は初めてかい?ここは函館で一番のイカが揃ってるよ」
悠馬は思わず微笑みながら、「はい、初めてです」と答えた。男性は函館のイカの美味しさや、早朝からの漁の様子を楽しそうに語り、悠馬は自然とその話に引き込まれていった。
「旅ってのはいいもんだね」と、売り子の男性がぽつりと漏らしたその言葉が、悠馬の心に静かに響いた。何を探し求めているのかは分からないままだが、この出会いが心に小さな余韻を残しているような気がした。
ふと、悠馬は市場を後にして、坂道を登り始めた。背後には市場の活気が残り、目の前には函館山がそびえ立つ。港町の静けさと賑わいが交錯するこの場所で、自分が何か新しいものに触れられるかもしれない――そんな予感を胸に抱きながら、彼は歩みを進めた。
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