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天使や木漏れ日
一人客がざっと十人
通路を挟んで 年配のカップルが一組
ご夫婦のようだ
ヴェンダースの話をしてらっしゃる
天使がおじさんだなんて ふざけてるわよ
そんな映画 どこが面白いっていうの
スクリーンだって小さいし
ホームシアターかと思っちゃったわよ
アナタはいつも こんなとこでへんてこな映画を観てたのね
ついてきたの 失敗だったわ
あの時はね そう思ったの
ワタシも同じことを思いました
映画館に入った途端 今日はデートじゃないんだって
ほんと マニアックな映画好きときたら
館内でのご飲食はご遠慮ください
はいはい わかりました
連れてけって言ったのはワタシです
観たい観たいと駄々をこねたのもワタシです
だって いつもひとりで行っちゃうじゃん
どんなの観てるのか知りたかったし
一緒に観たかったのよ
バスの窓から街並みを眺めていたり
図書館で運命の一冊を探したり
人混みに不満を感じていたり
お気に入りの音楽に体を揺らしたり
エンドロールを見ながら ぼんやりと思った
そこにワタシもいた
天使は空から舞い降りて ワタシたちの横に立つ
しばらくの間 静かにたたずみ 心の声に耳を傾ける
どうやら ワタシたちの独り言は詩のように響くようだ
天使にも心があるのかもしれない
心そのものなのかもしれない
ひとりで観たくなるのも分かる気がした
アナタの心の声を聞きたいと思った
映画館を出て
カフェへの道を黙って歩いた
季節限定のメニューにも心は躍らない
まだ 映画の中にいるようだった
明解なストーリーがあるわけじゃないし
ほとんどモノクロでドキリとするような演出もない
もちろん全米を泣かせたりはしないし
むしろ鼻で笑われちゃいそう
けど 寄り添ってくれた
アナタは 退屈だったかな とサングリアを奢ってくれた
退屈ではなかったけど そんなことはない とは返さなかった
それから ヴィム・ヴェンダースについてちょっとだけ話してくれた
ルー・リードのことも ちょっとだけ
弾かれてみないとわからないこと あるんだろうね
でね その弾かれた先でさ 優しくなれたりするのかもしれないよ
チェッて思うことはあってもさ
嬉しいことと寂しいことの間にあるといいね その先
何てことのない毎日
でも 今日は違った
すばらしい一日になったよ
公園で 動物園で 映画館で
キミと過ごせたから
暗くなってきたね 一緒に帰ろうか
心配事なんて全部放り出して
キミと週末を旅する
すごくうれしいよ
一緒にいると自分を忘れることができる
どこかのだれかになったみたいだ
ボクよりいいヤツにね
キミは手を差し伸べてくれる
キミは手をつないでくれる
どうか 明日がキミの実りとなりますように
(パーフェクト・デイ 詞 曲 歌:ルー・リード 青山による意訳)
ヴェンダースはふたりで観る
それはもう約束みたいなもの
だから 抜け駆けはなし
夜明け 寺社の周りを竹箒で掃く
ずっと長いこと こうしてきたのだろう
ひと掃きひと掃きに 心がこもっている
おはようございます
平山の朝に清々しさが届き
彼の時間が流れ始める
濁りのない一日でありますように
昨日に怯えたり
明日に不安を抱いたり
怒りを堪えたり
そんな毎日はもうたくさんだ
夜明けがくる それだけでいいんだと言い聞かせる
平山が軽トラに乗るのは 逃げ出すためなのかもしれない
レクサスでは行けない場所へ わずかな小銭をポケットに
朝の首都高を走る その先に未来など求めない
今までを犠牲にして得た ほんの少しの糧がバックミラーに映り込む
もしかすると 不甲斐なさも滲ませているかもしれない
どうせ 汚れるんだから
仕事が待っている それだけでいいんだと言い聞かせる
もう 落ちやしない
だから そうならないように
ひと仕事後のささやかな休憩時間
小銭分のサンドイッチを頬張る
木の葉と共にたゆたう光と影に目を細める
視線の先にホームレスが舞っている
彼の背には翼があるかもしれない
始まりはもう始まっている
ルー・リードのとなり やっぱりパティ・スミスよね
そうだね レナード・コーエン ルー・リード パティ・スミス
そんな感じで並べてるよ きっと
火によってなのか 試練によってなのか
ひとつずつ終わっていく
彼女は足を取られながらも 彼の許に辿り着く
始まりに終わりはあるけれど 終わりに終わりはない
約束によって あるいは孤独の内に 幕が降りる
私の終わりは 誰かのものなのだろうか
(フー・バイ・ファイア 詞 曲 歌:レナード・コーエン
青山による意訳)
木漏れ日に何を思う
平山は答えない
日々をめくっていく
こんどはこんど いまはいま