~絆《むすぶ》~ 3 イラスト 穂積小夜さん 小説 山田怜
「私、怖かったんだ」
まっすぐな言い方をしたくても、出来なかった。傷つけるんじゃなくて謝りたかったけど、なんだか緊張していた。
「うん、分かってるよ」
「いや、違くて」
何が違うんだ、間違ってるのは自分だって分かってる筈なのに。
「私ね、ゆいには何言われる覚悟あるよ」
「うん……」
やっぱり、難しいな。もどかしくて、むつかしい、この感覚。クロノスタシスに飲み込まれた様な具合の悪さ。
「言いたい事は分かったよ。何も言わなくていいからさ」
音はハッとした顔をした。その顔をして一秒、私もその心の内が分かった。それはテクニカルな悪口、文字通りに意味を捉えればいいのに、こういう時に限ってお互い変に勘繰って。鞄をまさぐるその手を止めて、私は完全に音と面と向かってしまった。もう後戻りも、これから動く事も出来ない。
「ごめん、そういうつもりじゃなくて」
「いや、その、大丈夫」
お互いにやってしまったという感情に飲まれてしまった。大丈夫って発音でさえ、今の音の心に深く刺さってしまったかもしれない。何とかしたいけど、喋る事泣く事はおろか、帰り道の一歩目を踏み出す事さえ出来ない。なのに心臓の音は強く鳴り、視界は左にじんわりと傾く。完全に凍り付いた五秒間は、放課後二回目のチャイムがほぐしてくれた。
「大丈夫だよ」
未だに動ける筈の無い音の体をほぐす為に、詰まった息をカジュアルに吐き出して鞄のチャックを閉める。
「コンビニ、行こ!」
音はやっと瞬きをした。しっかりと息を吸ったその肩は上がる。
「うん」
元気はなくとも、切り抜けた。
結局何も言えずにコンビニまで歩く。水とチョコアイスを買って店を出た。先に店を出ていた音はソーダキャンディーを買っていた。
「あのさ」
何かを言い出した音の口に、詰まらせない様にチョコアイスを加えさせた。
「美味しいでしょ! 私、これ好きなんだ!」
完全に平行線になりかけていた二人の間は、少しずつ戻った気がした。