君と僕と水族館と。1 イラスト 山本沙紀さん 小説 出町基
「こっちこっち!」
静かな水族館の中、キャッキャッと子供たちが騒ぐのと同じくらいのテンションで私は彼の手を引く。今日は、久しぶりのデートでしかも私の好きな水族館に来ることになった。何度も来ているが彼とくるたびにわくわくするし、テンションが上がる。
「分かったから、落ち着けって」
彼にたしなめられると、やっと私は落ち着き、
「えへへ、ごめん、君とくるとなんかテンション上がっちゃって」
てへへと頬をかきながら彼に言うと彼が頭を撫でてくれる。撫でられると顔があつくなるのを感じた。
「うれしいけど恥ずかしいよぉ」
彼の胸にポスっと顔をうずめながら彼をポカポカと叩く。
「ちょっ……痛い痛い」
思った以上に力が入っていたようで彼が痛がっていたので叩くのをやめ、私より背の高い彼の顔を下から覗きこむ。
「急に撫でないでよ……嬉しいけど」
言葉尻が小さくなっていったのが自分でもわかる。
「かわいいな」
追い打ちをかけるかのように彼にかわいいと言われると冷めてきていた顔がまたあつくなっていくのを感じた。
「ま、またそうやって、ばか……意地悪……」
そう彼に言うと、
「ばかで意地悪なのは嫌い?」
そう返してくる。
「もう、またそうやって、す……好きだけど」
「ははっ、知ってる」
今日の彼はいつもより、意地悪だ。
「も、もう、先行こ」
照れているのを誤魔化すようにさっきみたいに手を引いて彼を別のコーナーへ連れていく。
「わぁぁぁかわいい~」
クラゲを見ながら私はそう声を上げる。
「クラゲってなんか不気味じゃないか? 毒あるし」
彼がムードを壊すようにそう言ってきたので、
「そんなことないよ~プカプカ浮かんでるし触ったら気持ちよさそうだし、毒あるけど」
そう言い返して、またクラゲの方に向き直る。少しした後、不意に彼に肩をポンポンと叩かれる。
「なぁに?」
彼の方を向きながら、何があるのかを聞くと、
「もうちょっとしたらイルカショーやるみたいだけどいく?」
看板の方を指さしながらそう言われたので、私は目をキラキラさせながら、
「いく!」
そう短く答え、差し出された彼の手を握り、屋外にあるイルカの水槽に向かった。