子育てに活かすキャリア
あるママ友の場合
1歳半の女の子を育てるYさんとは横浜市の「子育て支援拠点」で出会いました。
Yさんは、食品メーカーの研究職に15年以上勤務しています。
長く仕事をしていると、自分は結婚しないかもしれないなと思っていた時期もあったそうです。
でもひょんなことから、飲み仲間の年上の男性と30代後半で結婚し、妊娠出産しました。
子どもは1人、これ以上はもう望まない。
なので、子どものためにしたいと思っていたことを全てしたい。
育児書もたくさん読み、気になることは調べたり相談したり自然と知識も豊富です。子どもの頃ずっと学級委員長をしてきたタイプで、他のママ友からの相談を受けたり、面倒見の良さが長所です。
子ども好きの夫は40代の年齢に似合わず、とてもフットワークが軽いタイプ。
土日には、母親と子どもばかりの「子育て支援拠点」にも父子で通ってきます。
40代の夫の両親は高齢だし、Yさんの親は九州に住んでいます。
必然的に、夫婦で子育てする連帯感覚があります。
つまり、上世代に頼れないこともあって、横の関係で支え合う意識が高いカップルなのです。
子育てにキャリアを活かすとは
そんなYさんは、育休中に、その知識や経験を生かして、子育て親のための「離乳食講座」(ごはん研究所)を子育て支援拠点で開いてくれました。
30名以上がともに学ぶ3回講座です。
各回ともに、前半はYさんの専門職で培った知見が紹介され、使える情報についてのレクチャーをしてくれて、その後、グループに分けれて参加者同士の状況を共有しながら悩み相談会の構成です。
専門家情報と横のつながりの両方の機能をプログラム化したものです。
ちなみに離乳食ってとっても大変。
何が一番大変って、離乳食の進め方やガイドラインはあっても数年スパンで変わってきていて、さらに食物アレルギー問題もあります。
これも年々実践が変わります。以前はアレルギーの原因になる食べ物は除去しましょう、が主流でしたが、近年は少しずつ食べさせましょう、に変わってきています。
子どもにチョコレートやスパイスをいつから与えて良いかなんて基準も明確にありません。
本によって食材の与える時期が異なります。
調べれば調べるほど、情報過多で何を基準に選択すればよいのか判断しにくいのです。
保育園に入園させるなら、保育園給食が食べられるように入園までに食べられる食材を増やしたい、でも子どもは食べむらがあってなかなか進まない。
離乳食の常識は年々変わっていくので、上世代とのギャップも大きいことも問題だと思います。
卵の与える時期が典型的で、アレルギーへの配慮から昔はできるだけ遅くすることがスタンダードでしたが、今は離乳食初期から与えても良いことになっています。
などなど離乳食の悩みがない保護者と出会ったことがないくらいです。
もちろん役所等で専門家である栄養士さんや保健師さんに相談ができます。でも、離乳食は毎日のこと、毎日相談もできない。
自然と子育て親同士で会って話して知恵をもらい合うことが多くなります。それぞれ人に聞いたり、本を読んだり、スマートフォンのアプリを使ったりと工夫をされています。
この「離乳食講座」(ごはん研究所)は、子育て親当事者であり、専門職でもあるYさんが、専門的な知見と当事者のニーズをうまく組み合わせたプログラムとして行われました。
専門的な知見とは、「味覚を司る味蕾は生まれてから成長していくこと」「子どもの月齢に応じた胃の容量について」など、子育て親の素朴な疑問に答えてくれる「科学版知恵袋」のようなものです。
このような取り組みは、まさにコミュニティカウンセリングの実践だと思います。Yさんの実践は、自身のキャリアを自分だけのために使わずに、知恵を開き共有する場を作ったことです。
こんな実践は、対人援助のキャリアの描き方だと思います。
子育て中のアウトプットはスッキリします。
だからこそ、誰かにとって役立つアウトプットをするために、自身のキャリアを使いたいと思います。
Yさんの実践は、自身のキャリアの上手な使い方を知らせてもくれます。
そんなYさんも、職場復帰に伴って研究職から事務職への異動を余儀なくされています。
キャリアの変更は、彼女の人生にどのような影響を与えるのでしょうか。