餅にすら演技をさせるドラマ映画、阿修羅のごとく

Netflix × 是枝監督
『真実』でのドヌーヴ&ビノシュとのホームドラマも良かったけれど、そこでは未消化だった表現を余すところなく完成させてくれたと感じました。

・食べ物のシーン
名画に欠かせない食べ物のシーン。
食べたフリではなく、ちゃんと食べてくれる俳優たちしか出てこない安心感。
各シーンにぴったりなそれぞれの食べ物たちは、『レオン』のミルクに代表される「モノ的象徴」と異なり、小道具としての食それ自体が役者かのようでした。
例えば、ストーブで焼かれた磯部餅すら演技していました。
伸び具合を引き出した松田さん、固くなりつつある餅を手に持つ蒼井さんのシーンは、特に印象に残りました。

・足
性的な部分を丸ごと見せるのではなく、足で表現するのは成瀬巳喜男監督を、アングルや能のシーンは小津監督を彷彿とさせ、日本映画ファンを喜ばせました。

・天丼効果、キーとなる電話の音
レトロな電話の音はきっと年配の方々にはより効果的でノスタルジックな演出でしたが、当時の電話を知らない世代にも十分心理的な効果を与えていました。
時にヒッチコックのように恐怖を与え、時に期待をさせる、相手が誰なのか分からない、黒電話。
原作との違いを確認したくなりました。
ヌーベル・ヴァーグやフェリーニ映画の頃もこう言う演出があった気がします。

・洗濯物を干す
女が気分を変える「間」は洗濯物を干すことで、男は煙草で描かれることが多かった。急展開に視聴者が置いていかれることなく、ちょうど良い時間を作りのめり込みます。

・言葉遣い
時代設定上の演出と言う一面もあるとは言え、美しい日本語が小津的でとても心地良かった。

是枝監督の他作品も話題作はいくつか観てはいるものの、まだまだ観られていないものも多いので、観られるだけ観ようと思います。

キアロスタミ監督が亡くなってからの消失感を、是枝監督の作品で補えそうで嬉しい。

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