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スターダム・アンドラス宮城が作る試合の意味

スターダムでは5★STAR GRAND-PRIX、最大のシングルリーグ戦が開催されている。今年後半の主人公を占う意味でも重大な戦いである。18名が2つのリーグに分けられるのだが、各ユニットから人が入り交じっての大乱戦となった。その中で、アンドラス宮城のTwitterが目を引いた。



彼女は仙台女子プロレスの出身で、フリーとなりスターダムにやってきた。元々造形系の短大を卒業しており、思考することには長けた人だなとは思っていた。仰々しいメイクもキャラクターも一目見るだけでただ者ではない事がはっきりと分かるのだ。

スターダム内で見る序列はそこまで高くはない。しかし、身長は高いし、試合の中ではきちっと強さを見せてくる辺り、どこの出身かが滲んでくる。ただこういうリーグ戦となると、星取りが優先されるわけだ。彼女はそこを変えた。


【9.22最終戦に向けて】

リーグ戦も始まったばかりの8月中盤、スターダム期待の新人ビッグダディの娘こと林下詩美が自身の顔真似をした写真がビッグダディのアカウントでツイートされるや否や、これを引用リツイート。その後、ビッグダディのアカウントにダル絡みを始めたのである。

これにビッグダディは「試合で頑張ったからお弁当をなんて、えらい可愛い申し出ではありませんか。」とリプを返し、娘は「ピーマンもトマトもニンジンもちゃんと食え !そういうとこだぞ!」と激怒してみせた。

このnoteでは、スターダムが如何に世界のプロレス市場で現在注目を集めているかという話を繰り返してきたし、詩美は昨年のこのリーグ戦を準優勝、この年のプロレス大賞新人賞を受賞、さらにSWA世界王座、EVEインターナショナル王座とイギリスのタイトルも保持する注目株である。そこに父親を標的にしたダル絡みを続けて、開催期間中盛り上げようとする辺りが策士である。

間違いなく最終戦の星がどうなるかというのは決勝進出の鍵になる展開なわけで、今は注目度が高くないが蓋を開けてみた時にこんな攻防が積み重なっているのである。こういうリーグ戦は"優勝をする"ということと、次の試合に注目させることが優先されがちだが、早々とリーグ最終戦を視野に入れているのだ。しかも、極めて真剣なところにファニーな要素を折り込む辺りが、彼女が持つ独自の視点、ヒールとしての立ち回りが見える。

そして、このダル絡みが他の対戦相手にも拡大していく。

 

【先生と生徒 対ジャングル叫女戦】

初戦のビー・プレストリー、2戦目のジェイミー・ヘイターは英語なので本格的に絡まなかったものの、3戦目のジャングル叫女との攻防はTwitterで開戦した。

スターダム参戦時からタッグベルトを巡って幾度となく対戦を繰り返してきた両者だが、叫女はハンマー投げ、砲丸投げでインカレ出場、青年海外協力隊でセネガルに小学校体育教員として行っていた経歴がある。

普段、その経歴を特段キャラクターにしているわけでもない叫女がうっかり発したこのツイートが地獄の始まりの合図だった。

突如すれ違う思惑、いや、噛み合ってるのか。ベビーとヒールというプロレス的な関係性を面倒くさい体育教師と不良生徒に置き換えて繰り広げられるツイート合戦。

TwitterというSNSはプロレスにとってリング上のキャラクターと本人の境目が曖昧な部分があり、海外のレスラーでもここのやり取りをリング内に持ち込むのはなかなか容易ではない。どうしても身体性が伴わない分チープになりがちなのだ。

このやり取りも一見、ふざけあってるようにしか見えないが、アンドラスは徹底して試合にもこの流れを持ち込んだのである。

こだわりよう。

 

【東北の風 対花月戦】

所属する大江戸隊のトップは花月だが、彼女もまた仙女の出身。

しかも、この1戦が仙台で行われるという辺り、今のスターダムの充実した環境が伺い知れる。思うところがあって離れたあの場所を思い出させる対戦相手はブログで反応。叫女みたいに不必要に反応し過ぎない辺り読み合いである。

今やNXT UKを代表するトニー・ストームを破り、スターダムトップのベルトであるワールド・オブ・スターダム王者も経験している花月と真っ向勝負を繰り広げ、仙台の地で破ってみせたのだ。

 

【過剰な感情 星輝ありさ戦】

ここまで様々な切り口でそれぞれの試合を盛り上げてきたアンドラスだが、実はこれを書こうと思ったきっかけは8日に行われる星輝とのTwitterでのやり取りだった。

星輝は現在、ワンダーオブスターダム王者であり、シュートボクシング仕込みの鋭い蹴りでスターダムのハードヒットなスタイルを一身に背負っている。スターダム旗揚げメンバーとして当時中学生でデビュー。2012年に1度引退し、プロのシュートボクサーに転身、18年の再び復帰をした。

試合中も闘争心を剥き出しにする星輝に対し、アンドラスはこうツイートしたのだ。

ここから、両者のやりとりは感情を巡ってリレーしていくわけだが、アンドラスはこの一戦、自分に対してどういう感情で向かってくるのかというところに向かっているのに対し、星輝の回答は感情全体についてだったり、質問に質問を返すなど悪手を繰り返す。

アンドラスの放った「言葉で文字でもっとプロレスしましょう。」という一言は、凄く斬新であり重たい。

専門メディアが減って、ファンも含めて外の目に触れる事は少なくなった現代、選手は自分の考えを発信出来るSNSが存在している。先にも言ったようにTwitterで起こった出来事をリングに持ち込むのは難しいのだけど、彼女はそこを掘り返そうとしたのだ。

ジャングル叫女、花月と彼女はプロレスを申し込んで、試合への注目度を上げると同時に、プロレスとどう向き合っているかという姿勢すらも浮かび上がらせた。

叫女はばりばりのパワーファイターでがっぷりと4つに組んだし、花月は互いの距離を意識しながらも隠された思いを見せた。星輝との絡みは、どこかすれ違ったまま、プロレス観の違いを匂わせている。ここまでのことを自分のSNSで完結させれるレスラーがどれだけいるだろうか。

例えば、バックステージコメントの上手さ、試合の意味をつけるのは棚橋や内藤が非常に上手い。主義主張、過去の因縁、様々な引用をしながら見ている人の注目を惹き付ける。ただの好きとか嫌いじゃない、人間味のある、他者の共感を呼ぶ言葉だからこそ意味がある。

星輝は強い。鋭い蹴りは格別だし、相手の攻撃を全て受け止める体の強さというのもまた優れたレスラーではある。しかし、アンドラスの仕掛けた言葉のプロレスまで受け身を取れているだろうか。

このリーグ戦はまだまだ続くわけだが、最初に紹介したビッグダディとのダル絡みはまだまだ継続中。アンドラス宮城から目が離せない。

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