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渡辺智子は女版ヒロ斎藤である

10月6日マーベラス新木場大会が渡辺智子デビュー30周年記念として開催された。いわゆる平成元年組であり、長与千種の強烈なシンパとして入ってきた世代である。しかし同時に、長与は入れ違うように引退。対抗戦時代の幕開けと共に新たな時代の女子プロレスの波に揉まれた世代でもある。

他団体の選手であるバンビがかつて渡辺から言われた印象的な言葉をツイートしている。当時はまだ珍しかった男子混合の団体からデビューし、女子団体との交流は少ないもののキャリアがどんどん上がり、下の選手が増えてくる中の言葉だ。

渡辺というレスラーはタッグ屋のイメージが強いだろう。全女時代とディアナ時代合わせて9度のタッグ王座を獲得している。前川とのタッグも印象深いし、やはりZAP・TとしてZAP・I同期伊藤とのタッグというのも、全女の歴史においては重要だろう。

デビュー当時からテクニシャンでインサイドワークに長け、ウェイトアップしてからはパワーも扱えるようになり、マスクマンとしてヒールの立ち回りにも定評がある。加えて、先ほどのバンビへの言葉を見ると、渡辺智子とは女版ヒロ斎藤ではないか、と思うのだ。

 

少し前の週刊プロレスでヒロ斎藤特集が組まれた時に、天山が、ヒロさんがいれば何も怖くない。日常の困ったことでもヒロさんに頼っていた、という天山らしいエピソードを交えながら語っていたが、どこか一歩引いたポジションを取りながら試合の要所要所を締めていく立ち回りを含めて、よく似ている。

女子プロレスの中でキャリアが長い選手でこういう選手はあまり多くないし、同じ時代を生きてきた職人肌のレスラー、コマンドボリショイやGAMIは裏方に回っている。下の世代でも有能なそのタイプの選手がどんどん辞めているわけだが、渡辺は結婚を経てまた復帰した。

それも、盟友伊藤のディアナを経て、憧れ続けた長与千種の横に並び立つためマーベラスを選んだ。昨夜、リングに上がった長与に大量の紙テープが飛んだ際も自身の周年興行であるにも関わらず、即座に長与の顔にテープがかからないよう腕を上げて守っていた姿がTwitterなどでも流れてきたが、こういう1つ1つが彼女の持つ優しさや尊敬を感じさせる。

やはりそれも長与千種という絶対的な柱への憧れなのだろうか。自分というものを顧みた時に真ん中に立つのではなく、横に立とうという風にも見える。そして、今、長与を大将としながらも、若きエース彩羽匠を支える存在にもなっている。

正直、長与が新団体を旗揚げするとなった時に不安がよぎった。長与自身のカリスマ性は未だ健在だ。それに選手の育成能力や団体としての幅の広さもGAEAで見てきた。一方で、黒字でありながら10周年というタイミングで解散した団体でもあった。あの時以上に小さな団体はどんどん増えている状況でどんな団体になるのだろうか。

しかし、あの時と違うのはもしかしたら渡辺がいるということなのかもしれないと今、思う。GAEAの時は所属選手と長与自身という構造となっており、10年という中で4〜50人以上の選手が離脱してしまったと言われている。今、マーベラスには桃野美桜、門倉凛のような魅力的な若手やSEEdLINNNGに参戦する新人達など新たな育成に成功しているように感じるのだ。実際の練習を見ているのは彩羽などが中心になっているが、プロテストの映像などでも渡辺が審査に参加しているのが見られる。

かつてのGAEAに似た雰囲気を感じるのはあの時のエース里村率いる仙女だ。確かな実力を持った選手はいるのだが、成長しては離脱してということを繰り返しているようにも見える。団体自体は里村の実力を武器にイギリス大会を成功させるなど精力的ではあるのだが。

 

主婦でプロレスラーで何が悪いと渡辺は言うが、女性の働き方を考える時に結婚をしたり、別な仕事をしながらプロレスをするということは、むしろこの時代においては普通だし、なんならメキシコではそういう選手は大勢いる。タクシー選手や数学教師なんていうレスラーもいるほどだ。

あたかも会社に所属し、全ての生活基盤がそこで成立する選手だけがプロと呼べるような風潮が未だこの日本の業界にはあるわけだが、渡辺のようなキャリアも才能もスキルも揃った選手は育てるのはおろか探すのだって並大抵のことではない。

こういう選手が業界に戻ってきてくれたこと、また輝いていることに注目すべきではないだろうか。

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