千葉市中央区"SOGAご当地アイドルプロジェクト"への疑問
Twitterで流れてきたご当地アイドルプロジェクトのお話。この手のロコドルの類は雨後の筍みたいに見てきたのだけど、甚だ疑問なところがある。地方活性のような単語が並ぶ中で、どうしてアイドルという発想が出てくるのか。
【千葉市の現状とは】
まず、地方活性を掲げている以上、千葉市、中央区の現状というのを把握する必要がある。千葉市のホームページより統計データを読む。
千葉市全体として見ると、この3年くらいで96万人から97万人後半まで伸び続けており、平成元年から見れば15万人以上も人口が増えている。中央区だけで見ると、この3年で5万人増えており、千葉の中では中央区には人が集まってきていることが分かる。特に顕著なのは、千葉市外から転入してくる数が多く、転出する数を上回っている。
年齢別構成比で見ると、15歳未満が11.7%、64歳未満が65.9%、65歳以上が22.4%とほぼ市内の数字と同じである。市全体で見た時の老年化指数が195.2であることを考えると、超高齢化社会の真っ直中だ。
市内の人口を15歳ごとに区分した時に30~44歳が20万人、45〜59歳、60〜74歳は19万人、15歳〜29歳が14万人、15歳未満が12万人、75歳以上が10万人というデータになる。県外で仕事をしている人間は9万5千人、通学者は2万人近くになる。(労働・就業人口のおよそ15%)
市民可処分所得で見ると、右肩上がりに数字は上がっている一方で、実質消費支出では娯楽・レジャー・文化は24年からの3年で大きく落ち込んでいます。その他の数字が伸びている事から、保険や金融商品に流れていることが考えられます。
移り住んでくる人も多く、交通の便も良いので住みやすい街だが、街全体の活気で見ると市内に回る人出とお金は少し寂しい、といったところだろうか。
さらに絞って、蘇我地区で見ると、大型スーパーなどもあり買い物環境が良く、海浜エリアには大きな公園、ジェフユナイテッド市原の本拠地フクダ電子アリーナを構えている。またbayfm主催の音楽フェスJAPAN JAMの会場とも知られ、5月のゴールデンウィークは人で賑わう。
【地域との関係が希薄な若者に地域づくりに参画してほしい……?】
HPの概要を読むと、このプロジェクトの目的として、中央区を活性化するために地域との関係が希薄な青少年に地域づくりに参画してもらうとある。そこで、ご当地アイドルを作って、地域住民みんなで様々な形でこのプロジェクトに関わってもらおうということらしい。
より詳細な目的が掲載されているので見ていこう。
①地域との関係が希薄な若者が地域活動に積極的に参画する。
中央区(蘇我地区)をフランチャイズとするご当地アイドルグループを創設することによって、若者が地域活動に参画する場を提供します。プロジェクトに参画する若者の地域への関心を高めます。
ここでいう地域活動というのは、いわばまちづくりということだが、買い物が便利な蘇我の街とアイドルにどういう関係があるのだろうか。
➁若者・青少年の自己実現、自己表現の場を提供します。
アイドル活動、アイドル支援活動へ若者・青少年が参画することによって、自己実現、自己表現の場となります。自己肯定感も高まるでしょう。
アイドルを目指してる子がアイドルになることは確かに自己実現出来るかも知れないが、アイドルの自己肯定感の高まりというのはチェキの売上げとか諸々の影響を感じざるを得ない。
③地域住民同士の交流促進、地域の活性化を図ります。
アイドルグループと地域住民、さらには地域住民同士の交流の機会を創出する事により、地域におけるつながりや絆を強め、地域活性化に繋がると考えています。
活動の中に、歌やダンスの他に地域の飲食店レポートなる仕事もあるので、そういうものを通して、地域住民とのふれあいをしていこうということらしい。
やはりここまで見ても、何故アイドルなのかが分からない。まちづくりということで言えば、賑わいや動員数というのが重要になる。東京都心から50分程度の住みやすい街にアイドルは必要だろうか。
千葉市では様々なかたちでこどもの参画を促しており、中でも、こども・若者サミットでは実際にこどもがまちづくりに社会参画する上での視点なども語られている。その中の1文だ。
実社会がどのような能力を若者に求めているかという点を意識した中で、こども・若者の社会参画の仕組みをデザインすることで、高校生世代の参画への興味が高まるのだと考える。
これを今回のプロジェクトに置き換えると、実社会は若者にアイドルになることを求めている、ということになる。
【千葉のアイドル事情】
では、実際千葉のご当地アイドルというのはどのような状況なのだろうか。
・BOSO娘
千葉県房総地区「いすみ鉄道」公認アイドル。2013年から活動を続けており、アイドル界でももはやキャリアの長いグループ。CDも3枚リリースしており、毎月第二日曜日に『駅前アイドル』という企画を八街駅で開催している。
・C-Style
木更津市非公認ヤンキー系アイドル。愛踊祭関東エリア代表決定戦の常連であり、氣志團万博のプレイベントに出演したりなどローカルながらも実力派。
・フルーツリング
船橋市のライブカフェBelle Amieをホームに活動するグループ。お店でのライブを中心にしつつも東京でのライブも積極的で、CDは全国流通している。
・2ねん8くみ 千葉校
千葉市中央区のアイドルカフェ2ねん8くみ 千葉校として活動。外部のイベントに出るというよりは、店内のライブスペースでの活動が主。
・寺嶋 由芙
千葉出身のアイドルといえば、この人。元BiSにして、最も信頼出来るソロアイドル。TOKYO IDOL FESTIVALにも出演経験があり、新曲『恋の大三角関係』も話題に。
イベント情報を見ても、東京の主なアイドルがリリースイベントなどを行ってはいるだけで、アイドルイベントそのものが行われている様子はない。さらに言えば、千葉県内の他の街にはアイドルがいるのだが、千葉市にはほぼいないというアイドル空洞化現象が起こっているのである。
アイドルといえば、ライブをする場所が必要だ。蘇我駅周辺で調べてみたが、これが全くないのだ。千葉のライブハウスは千葉駅、千葉中央駅に集まっている。
フェスティバルウォーク蘇我内のシネマシアターであるT・ジョイ蘇我の2階にはライブハウスがあり、一般的なライブハウスの値段で駐車場も完備されてるとはいえ、ここを常打ちの箱にするのはなかなか大変なはずである。
では、練習場所はと思い、ダンススクールを探すと、タップやバレエのスクールはあるものの、ヒップホップなどのスクールがない。まぁ、中央区というくくりであれば、千葉駅の方ももちろん含まれるので良いのだが、蘇我のまちづくりとして考えた時に果たしてアイドルという選択肢が妥当なのだろうか。
【成功というのは、諦めなければできる。】
実行委員長がどのような思いでこのプロジェクトを立ち上げたのかがこの記事から伺える。
この成功というのはどこを指しているのだろう。
まずこのプロジェクトは「千葉市中央区地域活性化支援事業~みんなで創る中央区づくり」の補助対象企業となっており、3年間で最大50万円の補助が出る。さらに、ホームページでは、法人、個人のサポーターを募っているという状況だ。
プロジェクトの成功というのは、持続可能な活性化のあるまちづくり、となるわけだが、アイドルというのは持続可能だろうか。また、持続させるための受け皿が現在の蘇我にあるだろうか。
募集要項を見ると、「アイドルを目指す皆さんの夢を叶え」という1文がある。アイドルを目指す子の夢というのは、どこで、何をして、どんな活動をして、将来的にどんなものになるのかがこのホームページに一切出てきていないのだ。
既に行われた第一回説明会の中で、10月22日にオーディションを行った後、月に2、3回のレッスンとのことだが、一体どんなパフォーマンスをさせると言うのだろう。
全ての要素において、チープなのだ。持続可能なまちづくりというものを考えた時にSDGsの根本に立ち返ると、前提として開発目標であることを忘れてはいけない。
17の大きなテーマの中には、働きがいと経済成長やつくる責任使う責任という言葉が並ぶ。例えば、このプロジェクトのスタッフをボランティアで募集しているが、果たしてそれが持続可能なまちづくりと言えるだろうか。
本来なら雇用創出までの道筋が立ってこその持続可能性だが、アイドルという職業で、蘇我という地域に経済成長が生まれるだろうか。このビジュアルやサウンドを提示している運営が月に2、3回のレッスンをさせた女の子達でどんなビジネスをするのか。どうやってお金を生むというのだろう。
【アイドルって簡単に出来ると思ってませんか】
うっすら透けて見えるのが、アイドルというのは未完成がいいから、それっぽいものならいい、という考えだ。だとしたら、募集してくる女の子に対しても失礼極まりない。
もはやそれっぽいアイドルなんて地下に行けば網ですくうほどいるところに、ライブ文化もない街でそれっぽいアイドルをして、どれだけのファンがつくというのだ。
今、ロコドルで強いといえば、八王子ローカルアイドル『8princess』だろう。2012年結成、ローカルアイドルの最大イベント汐留ロコドル甲子園3年入賞、今年は優勝を勝ち取り、@JAM EXPO出場権を手にしている。様々な面でこのクオリティまで持っていく心づもりは出来ているだろうか。
千葉県のいいところを調べると、都心へのアクセスがまず並ぶ。つまり、千葉にいるヲタクは東京の現場に行くのは苦ではないということだ。土日に地元の千葉でアイドルを見るか。それを決断させるだけの美味しい思いをさせれるか。そういうヲタクは蘇我の街に必要な客なのか。事細かく見るほどに、このプロジェクトというのが荒唐無稽なものに見える。勝ち筋が気になるところである。