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1年間、自治体→ヤフーへ研修出向。「自治体に持ち帰りたい」ヤフーの文化、マインドとは?

こんにちは。オープンコラボレーションハブ「LODGE」です。

今回は、山口県庁と神戸市役所からヤフーへ1年間出向していた、2名の方のインタビュー記事をご紹介します。「公務員」と「会社員」両方の立場を体験して感じたこと、発見、これから自治体で実現したいことなどについて、LODGEでお話を伺いました。

取材、文:Maiko Takeguchi(LODGE)
2023年3月13日 ヤフー本社ビル17階 LODGEにて


淺尾 有紀(あさお ゆうき)さん
2016年、神戸市役所に入庁。建設局総務課、こども家庭局幼保振興課を経て2022年4月~2023年3月の1年間、ヤフーに出向。メディア統括本部編集本部タイムラインPF編集2部に所属。2023年4月より神戸市役所経済観光局新産業創造課に所属。

船山 拓哉(ふなやま たくや)さん
2017年、山口県庁入庁。県税事務所、県議会事務局を経て2022年4月~2023年3月の1年間、ヤフーに出向。データソリューション事業本部パブリックエンゲージメント部データ活用1チームに所属。
2023年4月より山口県庁デジタル・ガバメント推進課に所属し、庁内・県内市町のデジタル支援業務に従事。

出向は断るかたちになる、と思ったら……

―― ではまず淺尾さん、出向の経緯を教えてください。

淺尾さん
神戸市役所では、待機児童対策、私立の保育園などを増やす業務をしていました。2月の中旬に突然上司に呼ばれ、出向の打診を受けました。
 
神戸市役所は2016年から代々ヤフーに出向者を出していて、私で7人目です。仕組みの存在は先輩に聞いて知っていました。
 
生まれも育ちも大阪で関西から出る考えがなく、東京への異動希望を出したこともなかったのでびっくりしましたが、貴重な機会をお断りする選択肢はないだろうと思い、お返事しました。
 
―― 船山さんはいかがですか?
 
船山さん
出向前は、山口県議会事務局で、県議会の予算措置、議会ICT推進などに関わる業務をしていました。
 
私も2月の初旬ぐらいに上長から打診を受けました。出向を受けるか否かは職員の気持ちを尊重するとのことでしたので、一旦持ち帰りました。子供も生まれたばかりで難しいかな、お断りする方向になるだろうなと思いつつ妻に話をしたところ、早速妻がスマホで東京のカフェを調べ始めて……(笑) 私自身も内心は行きたいと思っていたので、お受けすることになりました。
 
生まれも育ちも山口県で、視野がちょっと狭まっているだろうなとは常日頃から思っていました。一度県外に出て全国を俯瞰する経験も必要だと思い、中央省庁派遣を希望していました。ヤフーは日本を代表するインターネットサービス企業ですので、希望が1つ叶うかたちになるのではないかと思いました。
 
淺尾さん
公務員をしながら民間企業で働くって、多分今後あり得ない経験になると思いましたね。
 
船山さん
そうですね。以前から業務委託の民間企業とやり取りすることはありましたが、分かっているようであまりよく分かっていないところがあったので、民間企業のことを知りたい気持ちもありました。民間企業に出向してその立場を知ることはとても有意義な機会になるのではないかと思っていました。
 

どれだけ喜んで使っていただけるか、考えることが習慣に

―― 淺尾さんはヤフーでどんな業務を担当していましたか? 
 
淺尾さん
メディア部門でYahoo! JAPANのトップページに掲出する記事の選定や、Yahoo! JAPANアプリのプッシュ通知の運用に関わっていました。トップページのWBC特別企画の編成にも関わりました。スポーツでは野球が一番好きなので、とても楽しかったですね。
 
プッシュ通知の業務は特に、ユーザーの興味関心と記事のマッチングをよく考えないと、うまく刺さらないんです。常にユーザー目線に立って「どれだけ喜んでいただけるか、使っていただけるか」考えることが習慣化しました。市役所の業務ではユーザー目線に立つのが難しい業務もあったので、貴重な経験だったと思います。
 
業務はほぼオンラインでした。テキストでもZoomでも、自分の考えをきちんとリアクションとして返すことが円滑な業務のために絶対必要だなと思うようになりました。リアルでももちろん重要なことですが、オンラインでは特にそう感じました。

 
―― 業務上で、印象的なことはありましたか?
 
淺尾さん
組織の上の方が、大勢がいるミーティングではっきりと「他のチームの業務にも興味を持っていきましょう」とおっしゃったことです。自分たちの業務をより良くするために、横連携を積極的にしていきましょうという意図だったと思いますが、私には衝撃的でもありました。

仕事をしていると、組織上縦割りになる場面はどうしても多くなりますが、やっぱり仕事って地続きで横の連携がとても大事だと思うんです。私は以前からそういった働き方が正しい、そうすべきだと思っていながらも、なかなか出来ない状態でしたので、それを聞いて「自分のやっていたことは間違いではなかったのだな」と思いました。

普段の業務では、日々変わっていく情報をきっちり共有していくことをとても大切にしていました。インターネットの会社でメディアを扱う部署なので、なおさら盛んなのだと思います。
 
期初のキックオフやミーティングなど、正直「こんなたくさんやる意味あるのだろうか」と思ったこともありましたが、これがあるから「みんなはここを向いて仕事をしているんだな」「上の人はこう考えてるんだな」というのがすごく分かりましたし、短い間でも同じ方向を向いて業務にあたることができました。先ほどの横連携の話もそうですが、「どこを向いて業務を進めているかが、きちんと共有される」ことがとても新鮮でした。
 
これは、自治体とは本当に文化が違うなと思った点でした。こういった姿勢があると自治体や仕事の仕方も少し変わってくるのかもしれないと思いました。

 
―― 船山さんはいかがですか?

船山さん
ヤフーではデータソリューション事業本部のパブリックエンゲージメント、通称公共部と呼ばれる部署に所属していました。自治体向けのデータ分析のコンサルティングやYahoo! JAPANがサービス提供するデータ分析、ツールの営業販売などを行っている部署です。データ分析の有用性を広めることをミッションに、主に自治体向けにセミナー開催などをしていました。

船山さんが担当していたセミナーの一例

船山さん
DXは、ペーパーレスや電子決済、押印廃止など「住民の方にとってのデジタル化」と捉えている自治体の方が多かったです。ですが、変化が分かりやすく見えるものだけがDXではなく、EBPM(Evidence-based policy making) そのものにデータ分析が必要であるということを、ヤフー側は説明しています。データ分析によって施策の根拠付けを行い、データに基づいて政策立案し、より効果が期待できる戦略的な政策を作っていくことで、自治体のレベルが上がっていくといったお話をさせていただいていました。
 
データ分析は業務委託するものという認識を持っている自治体職員も少なくありませんが、ヤフーはそうではないとしています。データ分析できる人材を増やしていくことによって、庁内のひとりひとりが戦略的な政策を立案できるデジタル人材集団を作っていくことが、今後の地方の活性化に繋がるということを提案しています。「DXの底上げ」を行っているようなかんじでしょうか。
 
徹底してユーザー目線に立ち、「いかにユーザーの方に満足いただけるか」を念頭に置きながら、それを基に企画も事業もブラッシュアップさせていく経験ができました。それが成長できた点かなと思います。

県庁生活でも県民目線で県民のことを考えて……ということは意識していましたが、今から思うと考えきれてなかったように思います。関係者の納得や同意を経て次に進めなければいけない点に集中することが多かったように思います。

今後に活きる「共通言語」

 ―― ヤフーでの経験が、今後に生きそうだと思う点はありますか? 
 
船山さん
たくさんあります。ひとつは言葉について。ヤフーで働いていると、アジェンダ、アサイン、ジョイン、KPI、KGI、YOY、細かいところだとUIUX、バナーやカルーセル、ランディングページなど、今まで使わなかった言葉にたくさん出会いました。最初のころは意味が分からないものだらけで、「日本語でいいじゃん」と思うときも正直ありました。
 
そのうちに、逆に日本語に訳せなくなるほど慣れました。こういったビジネス用語を使えることは、今後、民間企業とのコミュニケーション、協業の助けになるのではないかと思うようになりました。 業務委託の民間企業とのやりとりでは、指示や報告以外のコミュニケーションも非常に大切です。用語以外のマインドの部分でも、パートナーとなるベンダー企業との共通言語を持つことができたのではないかと感じます。お互いの理解が最大限深まる、対等な関係になるために大きな助けになりそうです。
  
淺尾さん
私もたくさん学ばせていただきました。特に、Yahoo! JAPANのトップページに関われたことは大きな価値です。毎日データを確認して、PV数や掲載位置、時間帯、閲覧者の層などを分析して、プロジェクトのリーダーを中心に明日の業務に落とし込んでいくんです。とても刺激的で、なかなかできない経験だと思いました。
 
出向中の1年間で災害や大きな事件も起こりましたが、そういった有事対応の現場を見れたのも大きいです。マニュアルが完全に出来ていて定期的に訓練しているので、有事の際に適切な情報をすぐ出せる仕組みが整っています。そういった体制づくり、仕組みづくりはとても参考になりました。この1年間の経験は、今後どの部署に行っても何かしらの形で生きそうです。

市役所に持ち帰りたい、1on1の仕組み

淺尾さん
 1on1(ヤフーが導入している、上司と部下で行う定期的な1対1のミーティング)の文化も、今後持ち帰りたい文化です。雑談もOK、何を話しても良いコミュニケーションの時間が業務内で認められていることが正直、衝撃的でした。「こんな楽しい時間も業務内で、お給料をもらって大丈夫なのかな」といった気持ちになるほどでした。

この時間で、キャリアの相談や、何が好きか、どんなことに挑戦してみたいかといったことを話すことができました。伝えることで、「この人はこういう分野に興味持ってたな」「じゃあ、この業務はこの人に任せてみよう」といった理解にもつながるのだと思います。個人のポテンシャルやモチベーションを理解したうえで業務の割り振りができるこの仕組みは、役所でもぜひ取り入れてほしいと思っています。
 
この1年でしかお会いできない人が多いと思ったので、私はこの1年で70人と1on1しました
 
船山さん
70人⁉ すごいね。

淺尾さん
はい(笑)業務で関わる人が多いからというのもありますが、1on1を一回しておくと、そのあとのコミュニケーションがテキストベースでも、非常にスムーズなんです。「この人はこういう感じだったな」と分かるので、非常に楽になる。15分でも実際に話すといろんなことが分かりますし、確実にその後のコミュニケーションがいいかたちに違ってきます。
 
ヤフーでは「1on1したいです」とお願いすると、業務上の接点がなくても時間を取ってくださるんです。役所にもこの文化を根付かせたいなと思いました。先ほど「どの部署でも」とお話しましたが、ページ編成、情報発信、人事制度など、いろいろな部署で生かせそうなことばかりで、これからがとても楽しみでもあります。

 船山さん
ヤフーの1on1は、誰としてもいいというのがいいですよね。1on1の文化が根付いている人たちと喋るから誤解が生まれずに心地よいのか、緊張もせずにいろいろお話できましたね。

山口に戻って、挑戦してみたいこと

船山さん
今まで山口の中だけで働いていたので、「どこでもオフィス」(オフィス以外にも働く場所を自由に選択できるヤフーの制度)で名古屋や大阪に当たり前のように移動して仕事して、この1年で日本がすごく小さく感じました。フットワークも圧倒的に軽くなりました。

場所の制約なくどこにでも行って働いたことで、そういった働き方や生き方をしている人たちの感覚が分かったような気がします。この感覚は、今後、山口県に人を呼び込む施策などを検討するときに、大いに役に立ちそうです。

ヤフーの皆さんは常に変化しようとしているし、変化を恐れないし、変化を楽しもうとしていました。普段のミーティング、企画、あらゆる面において、ひしひしと感じる雰囲気で伝わってくるものです。たとえ障壁があっても、「この人に聞いてみようよ」と、常に笑顔で前向きに取り組む雰囲気がある。その雰囲気があるからなんとかなるし、実際にできるんだろうなと感じていました。それはヤフーのすごみだと思います。

そのマインドを持ち続けて今後県庁で働いていけば、自然と僕の周りの人たちがそういう雰囲気になってくれるような気もします。勇気もいりますが、できるかできないかは、この貴重な1年間で我々が培ったコミュニケーション能力にかかっていると思います。

淺尾さん、船山さん、本当にありがとうございました!

インタビューを終えて

淺尾さんと船山さんには、出向期間中、非常にたくさんの自治体の方を紹介いただいたり、自治体の仕組みを分かりやすく解説いただくなど、たくさんコミュニケーションさせていただきました。淺尾さんと船山さんに教えていただいたことは、LODGEが自治体DXの推進プロジェクトで様々な方とお話する際にも非常に参考になりました。本当にありがとうございました!

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