
保険料増で医療業界が苦しい? 現場スタッフが報われない理由と対策
1.はじめに──医療費や保険料が上がると、なぜ賃金が上がりにくいのか?
医療従事者の皆さんから、「なんで賃金が上がらないんだろう?」という声をよく耳にします。実際、世の中では医療費の引き上げ、医療保険料の上昇といった動きが続いているのに、それが「医療従事者の給与アップ」に直結していない。むしろ財政や経営の圧迫が続き、結果として給与改善が難しいケースが多いんですよね。
ここで、「医療費が上がってるのに、どうして給料に反映しないの?」という疑問を持つ方がいるかもしれません。本稿では、そのしくみをわかりやすく説明するとともに、この状況に対抗するための対策や工夫について考えてみたいと思います。
2.医療費や医療保険料の引き上げが賃金に直結しにくい理由
2-1.医療費引き上げの背景
少子高齢化が進む日本では、高齢者人口が増えることで医療や介護の需要が膨らみ、医療費全体も拡大しがちです。国としては、それをまかなうために「医療保険料の引き上げ」や「患者の自己負担率の見直し」など、財源を確保しようとする動きがありますよね。
一方で、政府や保険者は膨張する医療費を抑制したいという意図もあり、診療報酬(医療機関が受け取る報酬)を大幅に上げるわけにはいかないのが実情です。そうなると、医療機関の収益がガツンと増えるわけでもなく、スタッフの賃金に回る余裕が生まれない。
2-2.医療保険料の上昇は医療機関の経営コストも増やす
医療保険料が上がれば、当然ながら医療従事者も被保険者の立場として負担が増えることになりますし、医療機関が法人として負担する社会保険料も増えることがあるかもしれません。つまり、医療保険料の上昇は「医療機関のコストアップ」を招くことにも繋がるわけです。
「患者負担が増えれば、病院の収益が増えるんじゃないの?」という誤解もありそうですが、実際には国が診療報酬の基盤を決めているため、負担増で病院の儲けが増える仕組みにはなっていないんです。どちらかというと「患者さんの自己負担」や「保険料としての負担」が増えるだけで、医療機関が自由に価格を決められるわけではありません。
2-3.人件費に回す余裕が生まれにくい
最終的に、医療機関としては経営が圧迫される中、「スタッフの賃金を上げたいけど、そこまでのキャッシュフローがない」という状況になりやすい。特に中小規模のクリニックや病院では、医療機器の更新費用や人材確保のためのコストがかさむため、賃金への投資が後回しになりがちです。
大規模病院でも、看護師やコメディカルの確保が大変なうえに、患者へのサービスレベルを維持するコスト(ICT、電子カルテ、感染対策等)もどんどん増えているので、人件費を大きく上げられないという現実があるわけです。
3.現状を打破するために──対策の方向性
では、この状況にどう対抗すれば、医療従事者の賃金を少しでも上げることができるのでしょう? 以下に考えられるいくつかの対策を挙げてみます。
3-1.診療報酬改定への働きかけ
まず一つは、診療報酬の仕組みに対する働きかけですね。国が定期的に行う診療報酬改定の際、「医療従事者の人件費確保」という観点で報酬を適切に設定するよう、医療団体や専門家が意見を出し続けることが大切。ここで主張しなければ、いつまでも「コスト削減」の圧力ばかりが強く、肝心の人件費を賄うゆとりが生まれないでしょう。
もちろん、財政の問題や保険料負担の問題もあるので、簡単にはいきませんが、声を上げなければ何も進まない。医療従事者や関係団体が連携し、国や保険者に具体的な提言を行うことが重要になると思います。
3-2.業務効率化やICT導入
人件費を上げられない大きな理由の一つに、「業務が非効率でコストがかかりすぎる」という構造的な問題があるかもしれません。紙ベースの事務手続きや、煩雑な医療情報管理などが多いと、スタッフが無駄に疲弊し、生産性(ここでは医療の質やサービス)を高めづらい。
そこでICT(情報通信技術)の導入や、電子カルテの高度活用、AIによる検査支援などを進めれば、スタッフの負担を減らし、それを賃金に還元できるようになる可能性があります。実際、ICT化で事務を削減し、浮いたリソースを看護師や介護士の処遇改善に回す病院も出始めています。
3-3.付加価値の高いサービスの開発
医療機関といえども、“診療報酬”だけに頼りきっていると、収益アップの余地は限られがちです。そこで、例えば予防医療や健康増進のサービスを自費で行うなど、保険診療外の収益源を作ることが考えられます。
健康相談や人間ドック、エステやリハビリ特化型サービスなど、「患者さんが自費ででも受けたい」と思う価値を提供できれば、その利益を人件費に回す道が開けるかもしれません。もちろん規制や専門性の問題もあり、簡単ではありませんが、一種の差別化戦略として有効な手段でしょう。
3-4.人材育成とキャリアアップの仕組み
賃金を直接上げるのは難しくても、教育や研修の充実によってスキルアップを促し、結果的にスタッフが高度な役割を担えるようになれば、手当や職能給として収入を上げやすくなります。
医療従事者のキャリアアップ制度をきちんと整え、「レベルが上がれば給料も上がる」という明確なステップを用意するのです。これは個々人のモチベーション向上にも繋がるうえ、組織としてのサービス品質の向上にも繋がりますから、一石二鳥と言えます。
4.まとめ──多角的にアプローチしないと難しい
医療費や医療保険料が上がっても、医療従事者の賃金がすんなり増えないのは、国の財政事情や診療報酬の仕組み、そして医療機関のコスト構造など、さまざまな要素が絡み合っているからです。
簡単に言えば、「お金が増えているわけではなく、負担が増えている」というのが本質。保険料が上がっても、それが医療機関やスタッフの懐に直接入るわけではありませんし、むしろ医療機関も社会保険料の負担で苦しくなっている可能性がある。
だからこそ、次の対策が必要になってくるのです。
診療報酬改定への働きかけ
業務効率化やICT導入
付加価値の高いサービス開発
人材育成とキャリアアップの仕組み
どれか一つで解決できる問題ではないでしょう。全方位的に手を打たなければ、医療従事者の待遇改善にはなかなか結びつかない。それでも、一歩ずつ改善策を積み重ねていくことで、少しずつ明るい未来が拓けるはずです。医療従事者が報われる仕組みを作ることは、結局は患者や地域社会のためにもなるという視点を、みんなで共有していきたいですね。
いいなと思ったら応援しよう!
