絵本から経済を考える 第6回 「Luckyという言葉の裏側」 谷 美里
前々回の連載で、職業体験と経済教育はまったくの別物であるということを書いた。そこではパン屋を例にとり、小麦粉をこね、パンを焼き、商品を店頭に並べ、販売の接客をする——このような一連の活動を体験するのが職業体験であり、一方経済教育とは、経済の仕組みを学ぶこと、つまり、経済の文法やルールを知り、その動き方・動かし方を学ぶことであると述べた。
経済の仕組みを学ぶというのは、確かに経済教育のひとつの柱であるけれども、私たちが経済教育というとき(ここで私たちというのは、米国を中心とする先進諸国の大人たちのことだが)、もうひとつ大きなテーマが存在することを忘れてはならない。それは「貧困問題」である。
例えば Best Economics Books for Kids というWebサイトでは、5〜10歳の子どもたちに勧める経済絵本 Best 5 を専門家が選定しているのだが、5冊中3冊が「貧困問題」をテーマにした本である。3冊のうち1冊がアメリカ国内の貧困に関する話、あとの2冊は発展途上国における貧困問題を扱っている。
出典:Best Economics Books for Kids(https://fivebooks.com/best-books/economics-kids-yana-van-der-meulen-rodgers/)
小学生の子どもたちに貧困問題について考えさせる傾向は、近年日本でも高まっている。それはひとえに、2015年9月の国連総会で Sustainable Development Goals(SDGs)が採択されたことによる。SDGsとは『Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development』と題する文書で示された2030年に向けた具体的な行動指針で、17のグローバル目標と169のターゲットから成る。
出典:Sustainable Development Goals
(https://sustainabledevelopment.un.org)
そして、日本における貧困問題に関する教育の関心の高まりを如実に反映しているのが、中学入試の出題傾向だ。SDGsの採択以降、中学入試ではSDGsに関連する出題が年々増え続けている。2017年の出題数は120問強であったが、2018年に140問になり、さらに2019年では200問を超えた。SDGsの17のグローバル目標のうち、最初の6つがいわゆる「貧困問題」に関するものだが、そのテーマに絞って出題数をカウントしてみても、2017年に22問、2018年に35問、2019年に42問と増加傾向にある。(下記出典を参照)
出典:日能研『世界の未来を変えるための17の目標SDGs 中学入試問題から見る2019年の変化』(https://www.nichinoken.co.jp/opinion/pdf/cfr/sdgs/book_sdgs2019.pdf)
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