コンテンツガイド2月号(テーマ:原風景) 「大人たちにまさかの大ヒット、映画『すみっコぐらし』にみる原風景」 谷 美里
大人になって出来なくなったことのひとつに「落書き」がある。いやあ、大人になったって落書きするよ、という人は確かにいるだろう。私自身、講演会を聞きに行ったとき、隣の見知らぬ人がレジュメの隅に落書きしているのを幾度となく見かけたことがある。でもそういう落書きは、十割の確率で上手い。つまり、大人になって落書きが出来るのは、自分の描く絵に多少なりとも自信のある人のみである。だから正確には、大人になって出来なくなるのは「落書き」ではなく、「下手くそな落書き」なのだろう。
子どもの手による「下手くそな落書き」の運命は残酷だ。そもそもが暇つぶしのために書かれ(そこには絵に対する愛情というものがほとんどない)、書き上がってみれば溜め息をつかれ、まわりの誰の注目を浴びることもなく、そして十割の確率で忘れ去られる。絵が下手な子どもたちは、この一連の無益な行為のくり返しのうちに、いつしか羞恥心を覚え、落書きよりもう少し自分にとってマシな暇つぶしの方法を見つけ、やがて落書きというものをしなくなってしまう。
しかしその実、心の底では、落書きをしたいという思いは消えていない。私は落書きの上手な人を見かけると、「いいな、落書きができて」と未だに思う。絵が下手くそな大人たちは、「落書き」という行為に密かに憧れているはずだ。きっと未だに。かつて自分がそんな感情をもっていたことなど、今となっては滅多に思い出さないとしても。あるいは落書きの上手な人たちの中にだって、もう大人なんだからという理由で落書きを控えていたり、頻度を抑えたりしている人がいるのかもしれない。もしそうであるならば、やはり彼/彼女らだって、「落書き」という行為への憧れを密かにもっているのだろう。
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ところで、皆さんは、小学生の女の子たちに大人気のキャラクター「すみっコぐらし」をご存知だろうか。家族もしくは頻繁に交流のある親戚などに小学生の女の子がいれば、きっとどこかで目にしたことがあるだろう。そうでなければ、知らない可能性が高いかもしれない。あるいは、昨年11月に公開された映画のヒットを受けてその存在を知った、という方も多いかもしれない。
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