マガジンのカバー画像

沖縄SF

6
沖縄を題材にした作品たちです。
運営しているクリエイター

#SF小説が好き

焚き銭(8020字)

    1. 「なんだ、これは!」  大場龍三は自分の庭ともいえる飲み屋街の衰退ぶりに驚いた。週末の夜だというのに人の姿はまばらで、多くのネオン看板が切れかかっていた。通りの電灯は何本もチカチカと救難信号のように点滅し、夜道をわずかに照らすのみ。数少ない客待ちのタクシーもほとんどエンジンが切られ、運転手は車内で眠っているか時間つぶしにカーラジオを流しているだけだった。  若いころに輸入業者の船倉庫で貨物整理の仕事をしていた龍三は、磯と油の混じった臭いの四角いプレハブのなかで

キリバ(5840字)

――キリバは沖縄地方で遊ばれていたとされるトランプゲームの一種である。しかし、どれだけ調べても明確なルールや起源などは出てこない。トランプの起源は唐のころの葉子戯に由来する説が有力であることから、キリバとは実態のみえない霧のなかにある葉子戯〝霧葉〟が語源ではないかと推察する。沖縄は古くから中国との交易も盛んで、葉子戯が早くから伝わったのでは…… 「マサオさん残業っすか?」  ネット上のキリバに関するブログを眺めていると、帰り支度をする若い職員が話しかけてきた。 「ちょっとだ

鳳凰梨園(4886字)

「とうとうお呼ばれしちまった。いよいよ最期だな」  宿舎へと戻る貨物車の荷台で師匠はそうつぶやいた。亡くなる前日のことだった。翌朝、普段なら一番に起きているはずの師匠の姿が見えず、私が部屋を訪ねると布団の上で既に息を引き取っていた。師匠は私たち〝栽培者〟の中で一番の年長者で、若い頃に果樹から転落したことが原因で片足を悪くしていた。本来そうなると栽培者としてはお払い箱なのだが、幸運なことに師匠には果樹栽培や農業機器に対する知識が豊富だった。その為に果樹園の〝管理者〟たちは栽培者

蛇腹市場(5656字)

    1.  一夜にして島には港ができていた。待合室も船も、まるでずっと昔からあったよう。島には伊丹丹が一人で暮らしていた。潮の引き際を狙って釣りをしたり、森で果実を拾ったり。そうやって暮らしてきた。あるとき、彼は思い立って島内を探検したことがあった。だが、他の誰とも出会うことはできなかった。  しかし他人をみたことがない訳ではなかった。たった一人、彼の暮らす島には訪問者がいたからだ。その男は自らを〝マジシャン〟と名乗った。マジシャンはいつも唐突に島の洞窟から現れる。伊丹