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沖縄SF

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沖縄を題材にした作品たちです。
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#小説

焚き銭(8020字)

    1. 「なんだ、これは!」  大場龍三は自分の庭ともいえる飲み屋街の衰退ぶりに驚いた。週末の夜だというのに人の姿はまばらで、多くのネオン看板が切れかかっていた。通りの電灯は何本もチカチカと救難信号のように点滅し、夜道をわずかに照らすのみ。数少ない客待ちのタクシーもほとんどエンジンが切られ、運転手は車内で眠っているか時間つぶしにカーラジオを流しているだけだった。  若いころに輸入業者の船倉庫で貨物整理の仕事をしていた龍三は、磯と油の混じった臭いの四角いプレハブのなかで

勿忘熊(3746字)

 エネルギー資源探査のために衛星UM93を訪れた調査隊は、島の頂上を目指し丘を登っていた。白濁の海と恒常化した靄に覆われたこの星にどれだけの陸地が存在しているのか正確にはわかっていない。現時点で判明しているのは不定期に発生する津波が陸地を浸食し、群島化が進んでいるということだった。丘の中腹あたりに白い澱みが点在している。余程大きな波が来た証拠だろうと調査隊の隊長を務める男は思った。 「隊長。ここの海中には浮遊物質があり、バーミキュライトやカオリンなどの粘土鉱物が主なようです。

キリバ(5840字)

――キリバは沖縄地方で遊ばれていたとされるトランプゲームの一種である。しかし、どれだけ調べても明確なルールや起源などは出てこない。トランプの起源は唐のころの葉子戯に由来する説が有力であることから、キリバとは実態のみえない霧のなかにある葉子戯〝霧葉〟が語源ではないかと推察する。沖縄は古くから中国との交易も盛んで、葉子戯が早くから伝わったのでは…… 「マサオさん残業っすか?」  ネット上のキリバに関するブログを眺めていると、帰り支度をする若い職員が話しかけてきた。 「ちょっとだ

ユタのメイコちゃん(4078字)

 幽霊とは人間の可視光線範囲外で確認できる、あるいは生息している暫定の生き物である。生物たちは死を迎えると可視光線の範囲外に生前と同じ姿で現れる。それがどれくらいの期間そういう状態なのか、生きてる時とどう違うのかなどは何もわかっていない。観測しようにも、それらはただ空間を回遊魚のように浮遊しているだけで静止しなければセンサーにも映らない。捕獲しようにも物質的接触はできない。そもそも、幽霊が生物なのかどうかは研究者たちの間で議論の真っ最中で、今のところ暫定生物という便利な言葉で

鳳凰梨園(4886字)

「とうとうお呼ばれしちまった。いよいよ最期だな」  宿舎へと戻る貨物車の荷台で師匠はそうつぶやいた。亡くなる前日のことだった。翌朝、普段なら一番に起きているはずの師匠の姿が見えず、私が部屋を訪ねると布団の上で既に息を引き取っていた。師匠は私たち〝栽培者〟の中で一番の年長者で、若い頃に果樹から転落したことが原因で片足を悪くしていた。本来そうなると栽培者としてはお払い箱なのだが、幸運なことに師匠には果樹栽培や農業機器に対する知識が豊富だった。その為に果樹園の〝管理者〟たちは栽培者