シェア
1. 「なんだ、これは!」 大場龍三は自分の庭ともいえる飲み屋街の衰退ぶりに驚いた。週末の夜だというのに人の姿はまばらで、多くのネオン看板が切れかかっていた。通りの電灯は何本もチカチカと救難信号のように点滅し、夜道をわずかに照らすのみ。数少ない客待ちのタクシーもほとんどエンジンが切られ、運転手は車内で眠っているか時間つぶしにカーラジオを流しているだけだった。 若いころに輸入業者の船倉庫で貨物整理の仕事をしていた龍三は、磯と油の混じった臭いの四角いプレハブのなかで