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フリースタイル読書ノート23.05.27

縦横無尽に本を読んで浮かんできた心象を書き留めます。


本を捨てなくて本当に良かった

本を捨てたり売ってしまったりしないで本当に良かったと今日心底思いました。ふと思い出した本を、本棚から探し出して懐かしい思いに浸ったり、記憶にないほど前の付箋の意味を考えたり、またそれらが別の本につながったりして無限に広がる読書の旅を味わえました。自宅のソファーに居ながら。

蔵書を集めるのは特に中高に腐心していた趣味でした。今は読む本が専門書ばかりになってしまったのもあって大学の図書館で借りてばかりなので、新たに買うことは稀になりました。そういう経緯もあって最近、本棚の本を整理して数を減らしてしまおうと思っていましたが、むやみにやらないでしまってよかったです。もちろん多く持つことが良いという話ではなく、青年時代にお小遣いで買った本棚1つ分ほどの本をずっと持っていることの何がいけないでしょうか。そんなのは全く造作のないことであるうえ、むしろ人生の財産ともいうべきものになるでしょう。今後はいや増して宝であり続けるでしょう。
以下はその宝の一部を数時間旅した私の軌跡のスケッチでございます。

1.ヘルマン・ヘッセ『地獄は克服できる』



-1
おお、テクニカル悪口だ。せわしなく、社会に埋没しゆく現代人を軽蔑する作家の鋭い皮肉である。

魔神が運命を操っているために、一方的な激しい情熱にかられて、盲目に、烈火のように燃え上がりながら決して休むことなく、人生を邁進する性格に生まれついている人はべつとして―(略)

ヘルマン・ヘッセ「お前は本当に幸せか?」1904,『地獄は克服できる』草思社文庫、2020年、pp87-88

私は魔神に運命を操られていないだろうか?と読者にその問いの矛は向く。しかし自身をかえりみれば、まさに今、土曜の午後にすべてのやるべきことを放棄して、本棚の本を引っ張り出し、好きに読み漁って、箸にも棒にも掛からぬ文を書いている時点で忙しなさの魔人は不在だろう。すべきことが進まぬのはそれはそれで私を煩わせているから、魔人にはもうほんの少しだけ、パートタイム的に滞在してほしい気にもなるが。

ー2
「無為の技」の章
先に前のパートを読んだから-1に関連した内容に思えた。無為の要を説いている。
西洋の時間は限界にまで細分化され、その一欠が二束三文の価値しか持たなくなってしまったが、一方で東洋は無限の時間を汲みだすという。彼らは急いでいない、暇だからだ、と。例えば、千一夜物語ではプロットの進行がいくら遅れても、美女や刺繍の美しさ、息づく男女の唇の赤さ、卑劣な男の卑劣さについて惜しみなく、時を割いて描写してあるように。

-3
まさに今の私のことだ。その時々に何かを発見して心をとらわれていれば時間など無限に感じられる。ヘッセは、西洋人が東洋に癒しを求めてアラビアンナイトを読んだり瞑想をしたりすることに躍起になるのに、かれらの”具体的な生活”にそれを見出すことをしないと、鋭い指摘をしている。
多忙な日々の渦中にあると、つい時間を切り売りしてしまうものだが、実際やはりそれではガス欠になってくる。つい先週末はそうなっていたが、具体的には感情が平たんになって身体が動かなくなったりする。その時はあの魔神を思い出せ。思い出して、魔神が逃げるように、一日中、無為に過ごすことだ。スマートフォンの電源をすべて落として、ソファに腰かけては音楽をかけてただお茶を飲み、親しい友人に手紙を書いたり、ちょっと徒歩で出かけて空を眺めたりも良し、花を飾ってみたりもよし。それだけでたちまち魔神は逃げていくだろう。私たちはすぐさま無限の時間を取り戻せる。

私はこのような哲学で生きていて、少しだって無為に、怠惰に過ごすことが許されないのは、異常事態なので、課題の提出は気長に待っていてください。こんなメールを先生に送れるわけではないのだけど。

2.三島由紀夫『春の雪』

-1
久しぶりに味わったこの美しいレトリックたちに心酔した。
なんて良い文を描くのだろう。この文体は現代日本語の珠玉ではないか。
圧倒的語彙、叙事の体を取ったきめ細やかな叙情は類を見ない。

-2
ところで、フランス文学史の講義を受けているのでなんとなく関連させてしまうのだが、自然描写は中世、18世紀ほど?まで全く受け入れられていなかったそうだ。理由は移ろってしまうから。いかにもフランス的でいい。デカルトの国だ。でも日本人から言わせてみれば、諸行無常が常識、地球上のすべてはアンサステナブルなので無駄なあがきに白けてしまう部分もある。

その点三島由紀夫の優れているところは、自然描写によって、直接その感情を描写するよりも却って克明に描き出してしまうことである。

とにかく心酔した。

こんな駄文を描いていたらいつの間にか日が暮れだした。
ということでここらで擱筆
また次の旅で会いましょう



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