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木曽漆器の基礎知識

ローカルナイトピクニックでは、塩尻市の地域資源として木曽漆器にスポットを当てました。今回、木曽漆器工業協同組合さんのご協力で、漆の濾し紙を提供していただき会場装飾の製作を進めています。
会場装飾を通して木曽漆器とのつながりを感じていただき、塩尻が世界に誇れる伝統工芸の産地であることも皆さんに知っていただきたいと思っています。
この記事では、木曽漆器や漆にまつわる基礎知識をまとめてみました。漆器について興味を持つキッカケになれば幸いです。


木曽漆器の歴史


木曽漆器の歴史は江戸時代にかけて大きく発展しました。木曽地方は、中山道の要所であり、奈良井宿をはじめとする宿場町が存在しました。奈良井宿は中山道の中でもひときわ賑わい、宿場町は"奈良井千軒"と呼ばれるようになりました。多くの旅人や商人が行き交い、木曽漆器の流通を促進する重要な役割を果たしていたのでした。


この木曽地域では、豊富な森林資源を活用した「白木細工」という木材加工技術が生まれました。白木細工は、漆器の素地となる木製品の製作技術であり、特に木曽のヒノキやケヤキといった良質な木材を使用することで、耐久性の高い漆器が生産されました。この技術が木曽漆器の基礎を形成し、後世の漆塗りの発展につながりました。


戦国時代には、武士たちが戦装束や武具に漆を使用するようになり、漆器の需要が増していきました。江戸時代に入ると、奈良井宿を中心に漆器の生産がさらに活発になり、庶民の日常生活にも広く浸透していきました。漆器は日本人の生活になくてはならないものになったのです。
奈良井宿が交通の要衝だったことから、木曽漆器はこの地を訪れる人々の間で、その耐久性と美しさで評判となり、全国にその名を広めました。現在も、木曽漆器はその伝統を受け継ぎ、塩尻の特産品として国内外で愛されています。


木曽漆器の特徴


木曽漆器の最大の特徴は、その堅牢さと美しさです。漆塗りの製品は耐久性があり、適切に手入れをすれば何十年も使い続けることができます。漆は自然素材であり、使うほどに味わいが深まり、経年変化を楽しむことができる工芸品です。木曽漆器は特に、木材の質が高く、木目の美しさが生かされた製品が多いことでも知られています。


漆器はその産地や工房によって製作工程が異なることも魅力のひとつです。木曽漆器は職人一人が全ての工程を担います。それゆえ、個性がでやすい特徴もあり、自分の好みにあった漆器を見つけるのも面白そうですね。

木曽漆器の塗り方は薄く何度も塗り重ねることで、滑らかで光沢のある仕上がりが特徴です。色彩も豊富で、漆の自然な黒や朱色を基調にしながらも、職人の技術で繊細な模様や装飾が施されています。これにより、木曽漆器は機能性と芸術性を兼ね備えた工芸品として高く評価されています。


漆についての基礎知識


漆は、ウルシ科の植物から採取される樹液を加工して作られる天然塗料です。この樹液は、木の幹に傷をつけて滲み出てくるもので、非常に粘性が高く、乾くと固くなる性質を持っています。
上の写真のようにウルシの木に傷をつけることで、傷を修復しようとして樹液が滲みでてきます。傷をつけて漆の樹液を採取する工程を「漆掻き(うるしかき)」といいます。漆掻き鉋(かんな)とよばれる専用の道具を用いて、木が痛まないように等間隔に適切な量を漆掻きを行います。


漆の塗装は、何層にも塗り重ねることで硬さと光沢を出すため、非常に手間と時間がかかります。しかし、その結果として得られる漆製品は、耐久性が高く、防水性や防腐性にも優れています。また、漆には抗菌性があるため、食品を扱う道具にも適しており、古くから食器や調理器具としても使用されています。漆塗りは、温度や湿度に敏感で、乾燥には専用の室(むろ)と呼ばれる空間が必要です。漆職人は技術を磨くだけではなく、農産物としての漆の特性を理解する必要があるのです。


国産漆の減少


日本国内で採取される漆は、かつては豊富に存在していましたが、戦後の経済発展とともに需要が減少し、現在ではその生産量が激減しています。これにより、漆器産業は中国産の漆に依存することが増え、国産漆に関連する技術や伝統が減少しつつあります。
経済発展による需要の変化とは、私たち日本人の生活様式の変化とも言えます。実用の中で生まれた機能や美しさを備えた工芸製品から、利便性・合理性を突き詰めた大量生産の工業製品を使う生活が今や主流になっています。
漆を取り巻く環境は生産側だけでなく、それを使用・消費する私たちの意識によっても大きく変化してきたのです。

出典:農林水産省Webサイト(令和5年度森林・林業白書-第1部 第2章 第2節 特用林産物の動向(2)





漆業界の今後の展望


これらの課題を解決するため、近年、様々な取り組みが進められています。国産漆について、その復興を目指す取り組みが進められています。その一つとして、漆の木を新たに植樹し、持続可能な漆採取を目指すプロジェクトが各地で展開されています。また、国産漆の価値を見直し、品質の高さをアピールすることで消費者の理解を深め、需要を喚起する努力もなされています。さらに、若い世代の職人育成や、漆に関する教育活動が行われ、伝統技術の継承と漆産業の周知が期待されています。

漆器のマグカップ

現代のライフスタイルに合ったデザインや、日常使いのしやすい製品の開発が進んでいます。まずは漆器の使い心地、デザイン性をご自身の生活の中で感じてみることからはじめてみませんか?例えば、漆器は長く使うことで経年変化を楽しむことができます。身の回りで経年変化を楽しむモノを使用・所有している方は、きっと漆器のある生活を楽しめるのではないでしょうか。



若手職人養成にも力を入れています。

漆業界が今後も発展し続けるためには、伝統を守りつつ、現代のニーズや生活様式に漆を落とし込んでいくことも必要なのかもしれません。そして、消費者である私たちも、まずは漆器を使ってみることで、その良さに気付けるはずです。
単純にウルシの木を増やしたり、漆に関わる職人を増やすだけではなく、私たちは漆にまつわる文化を見つめ直すタイミングにきているのかもしれません。よくよく考えてみたら、漆はもともと日本人の生活に根付いていたものです。利便性、合理性を求める中で削いできてしまったものの中には、今の私たちにとって大切なものがあるかも知れません。


今回の記事でご紹介したのは、「木曽漆器や漆にまるわる、基本のキ」
もし皆さんが生活する中で漆にまつわるものと出会った時、この記事のことが頭の片隅にでも浮かんだらこんなに嬉しいことはありません。
漆文化に関わる方々の笑顔につながれば幸いです。

次回は、木曽漆器の工房を訪ねたインタビュー記事をお届けいたします。


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