磐城寿 純米大吟醸 2018 山田錦45 生酛仕込み
歳を取るとともに、変わっていくことはいろいろとある。その中でも、とりわけ良い変化は日本酒を好きになったことだと思う。新しい日本酒に出会う度に、その出会いに感謝するととともに変わっていくことを楽しいこと、ポジティブなこととして捉え直していく。
マニラに来て、ずっと一人で、晩飯はタコスでも、日本から届いたこれを静かに部屋で飲んで、暮れていく街を眺めれば、「悪くない人生だ」と思う。こういう酒がある限り、私は一生自分が日本人であることを誇り続けるだろう。
ほぼ常温に近い、やや冷やし気味で頂いた。無色透明。香りが美しい。奥深くて華やかで、優しくて爽やかである。拙い私の言葉では表現できない。ただ、これは酒の香りだ。胸を熱くする、あの香りだ。一滴だけ口に含む。分厚い。舌の上を滑り喉に落ちる、その軌跡にそって味わいと香りが上に上がっていく。すっと喉に落ちると、余韻はリフレインして何度もそこでループする。こんなに次の一口が楽しみな液体はどこにもないと思う。
福島の景色が浮かんだ。雨が降っていた。強い風が雨を右から左に流す。傘はなんの意味もなさず、体の右側だけびしょ濡れになる。それでも、なんとか屋根の下まで来て、灰色の太平洋を眺めていた。友人の家に着くころ、いつの間にか雲は晴れて星が光っていた。そこで飲んだのも磐城寿だった。