阿蘇の山を愛する方法
カーブを曲がる、視界が広がる。そこに阿蘇の山がある。
道は曲がりくねり、次のカーブを曲がるとその山は視界から消えた。そうして、またその次のカーブの外輪に休憩所があった。
車を停めて外に出る。1月の山の空気は冷たい。空気は澄んでいて、雲のない空の下、遠くの山や町までよく見渡せる。昼前の太陽の光は柔らかく、風はほぼない。彩度の低い、乾いたベージュが眼下に広がる。
山は静かにこちらを見ていた。我々も静かに山を見た。ぬるくなった紅茶を一口すすり、後部座席のカメラを取り出して写真に収めた。
どこかで鳥が鳴いていた。エンジンを切ると、聞こえるのは少しの鳥の声と、枯れ草の音だけになる。
連れは寒いと言って助手席に戻り、私はもう少しだけ山を見ていた。
山にだっていろいろある。私は「こいつはいい山だ」と思ってから、運転席に戻ってエンジンをかけ、そこを後にした。
東京に帰り、この名の知らぬ名前の山を絵に描いてみた。写真で見るよりも、山は楽しげになった。もう少し春に近づいたら、きっとあの山はこんな感じになるのだろう。
色相を反転させてみる。山は今風の顔になった。
背中にプリントしてみる。山に威厳が出る。
Tシャツができたのは昨年の5月。随分着込んだが、山はまだ色褪せていない。
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