【食の安心と安全って?】生活衛生等関係行政法改正案(その1食品編)
本日は、この度国会で審議されることになった「生活衛生等関係行政の機能強化のための関係法律の整備に関する法律案」について考えてみたいと思います。
(本稿で対象とするものは2023年第211通常国会で提出された法案です)
はじめに
最近、選挙などで「安全」「安心」という言葉をよく使っていることを感じませんか? 国会などの議事録でも「安全」「安心」という言葉が8000万回ぐらい使われていると思います。しかしこれははっきり言って国民を欺くための枕詞です。その後に続くことは胡散臭いことが続き、それを誤魔化すために「安全」「安心」という言葉を使っているに違いないのです。
さて、本稿を書いている間にマイナンバーカードシステムの障害に関するニュースを目にしました。コンビニでマイナカードを使って住民票を印刷したところ、別人のデータが印刷されてしまったということです。横浜市の調査では情報流出は18人分、原因はマイナンバーカードからの申請で印刷するプログラムのミスによりシステム負荷でミスが発生してしまったというものです。多くの国民は「国がやってることは間違いない、安心だ」と思っているようですね。マイナンバーカードも国がきちんとシステムを作っているから安心。個人情報なんか漏れっこない、ってね。
しかし、この問題は「安全」であるはずのプログラムが安全ではなかったということです。プログラムが正常に動くことは「安心」だけでは成り立ちません。強いていうなら、綿密にプログラムのデバッグをしてどんな状態でもプログラムが正常に動くことを確認しなかった官庁の担当者がプログラム担当会社のことを「安心」感だけで任せきりにした責任があるのでは?と思います。税金で運営していく以上、なあなあで仕事を済ませてもらっては困ります。どんな信頼関係があったとしても、プログラムにはミスはつきものです。とにかくどんな細かい点でも疑ってかかる姿勢が大切なのではないでしょうか。そのような厳密さが公務員にあれば国民は「安心」して仕事を任せられるということになります。
食品行政はこの問題に対し、比較的良心的に行われてきました。つまり食品の安全性は科学的な知見を基にして考えていこう。それが確立されて初めて消費者が「安心」して食べ物が食べられるようになる、という考え方です。
食品安全基本法という法律が作られてから、日本人が食べて特に問題がないとされるもの、その量などを科学的な前提から判断し、国民が食べられるようなものを提供するという厳格な制度にしました。その中でも食品添加物についてはその物質の組成や規格を明確にして、使用する量が越えなければ通常人体により代謝、排泄されることから使用を認める、ということにしました。これは「安全」に関わることです。そして、食品メーカーやスーパー、百貨店などがその食品や食品添加物を使用した食品を製造、販売することは「安心」だということで国民は健康に暮らしていけるのです。
主に食品添加物に関する基準や規格を定めるのが従来は厚生労働省でしたが、この部分を消費者庁に移管するというのが今回の改正の中心的な事柄となっています。規格基準行政は「安全」に関わることです。しかし、消費者庁の設立意図はいかに消費者の「安心」に応えるかということです。ここが今回の改正をめぐるポイントともなってきますので、そのことを念頭において読み進めていただければ良いと思います。
生活衛生等関係行政法の改正案とは
さて、本題。生活衛生等関係行政は地方自治体において特殊な存在です。というのも、生活に密着した行政でありながら、所轄官庁は厚生労働省の保健所が担当しています。中核市であれば市独自の保健所設置が可能ですが、一般的な市町村では保健所が担う保健行政は道府県単位で行うことになっています。
また、今回の法改正は食品衛生法に関わる部分が多いようですが、食品衛生法自体が禁止事項の多い規制法でもあることから、食品衛生法に基づく「衛生警察」としての役割は地方自治体の職務にそぐわないことでもあります。身近に感じることでありながら、基礎自治体の事務として現れない特殊な存在としての食品衛生法の内容確認も含めて書いていきたいと思います。
なお、今国会での改正案は食品衛生法関連と水道法に関する内容が主となっていますが、今回のブログでは食品衛生法の「基準策定」のテーマのみに絞ってみていくことにします。水道法に関する部分の考察については「その2」として別の記事に分けて記述しています。
では、どのような改正法案となっているか、法案の理由書から見てみましょう。
所轄権限の変更、審議会の新設、所掌事務の見直しとありますので、以下ではこの3点の解説を行っていきます。
生きていたコロナの亡霊
まず、所轄権限の変更がどのようなものであるか、昨年の9月にさかのぼって迫っていきます。
令和4年9月に行われた第97回新型コロナウイルス感染症対策本部」において岸田首相が『新型コロナウィルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策』を発表しました。そこで、現在の保健所を中心とした危機管理体制があまりにも不十分だった経験をもとに考えられた、具体的対応の4の【3】として感染症対応能力を強化するための厚生労働省の組織の見直しについて触れられています。
厚生労働省の担当するいくつかの行政を親和性の高い省庁に移管し、厚生労働省の負担を減らしスリム化することで、感染症対策強化に向け、省内の体制を整えていくということだそうです。要は厚生労働省の業務が多すぎるので、一部である食品関係を消費者庁に移しますと言うこと。この件に関しては、その後行われた薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会において全国消費者団体連絡会事務局長の浦郷由季氏が反応しています。
しかし、次の回の同審議会において日本生活組合連合会常務理事の二村睦子氏が文書にて意見を提出しました。文書が長いので要約したものを掲載します。
今回の基準行政の移管については、私も個人的に違和感があります。どうも政府の考えは、消費者の考えていることと厚生労働省が行ってきたことに齟齬があったのではないかと考えていると思えます。どういうことかと言うと先に紹介した岸田首相の「具体的対応」で述べられているのですが、厚生労働省の基準策定の役割を無視した「消費者庁が食品安全行政の司令塔機能を担っている」という言葉に現れていると感じるのです。本来は厚生労働省が食品安全行政の中心だったはずなのです。
実際にこの12月の分科会では、分科会長の秋田大学名誉教授 村田勝敬氏から参加する委員の多数に意見聴取しているのです。このことからも、かなり問題が大きいことであると考えていることが分かります。さらに翌年1月26日に行われた分科会の席上で分科会長自身が次のような見解を述べているのです。抜き出してご紹介します。
このように、長い間規格基準行政を担ってきた審議会の委員から不安の声が出た場合、通常の審議会であれば、さらにこの件に関する審議も行っていくことがあるのですが、今回は決定事項としてそれ以上の追及はされませんでした。相当、官邸側(もしくは消費者庁内閣特命担当大臣である河野太郎氏?)からの意向が強かったことが読み取れます。
「コロナ優先」の政治はいったいいつまで続くのでしょう。暗澹たる気持ちになりました。
関連法の改正事項について
さて、本題である『生活衛生等関係行政の機能強化のための関係法律の整備に関する法律案』の内容についてみていきたいと思います。
食品衛生法の改正は主に「担当大臣」「関連審議会」の部分の改正となります。整理すると、
(1)「薬事・食品衛生審議会」 → 「厚生科学審議会」
「食品衛生基準審議会」を消費者庁に新設。
(2)「厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定したもの」または、権限が厚生労働大臣だったもの、を、
『(厚生労働大臣及び)内閣総理大臣が食品衛生基準審議会の意見を聴いて指定したもの』
という変更になります。
次に、食品衛生法で規定されている項目の紹介も含めて、管轄大臣、審議会の部分を抜き出します。
この中で特に問題とされているのが
という部分です。そして、これらの権限をまとめたものが第七十条の大幅な改正(第二項の新設)となっています。
上記に紹介してきた内閣総理大臣の権限となる条項について、食品衛生分科会で問題視されたことが関連するわけですね。
つまり、コロナの関係で厚労省が忙しくなったがもう落ち着いてきた。どうして今になって業務の移管が必要なのか、という思いが含まれているのではないでしょうか。
消費者庁移管に対する業界の反応
一方、消費者庁は「消費者庁及び消費者委員会設置法」に規定されている所掌事務(第四条)において四の二として食品衛生法上で規定される食品、添加物、器具、容器包装、洗浄剤に関する基準の策定が設けられました。
改正法案についてそれらを受け止める業界としてはどのような意見が出ているでしょうか。食品分析開発センターでは青天の霹靂であるとしてこのような発言をしています。
一方マスコミ報道はどうでしょうか。
マスコミとしては概ね消費者庁への移管をOKと捉えているようです。それはおそらく、これまでの厚生労働省のやり方があまりにもブラックボックス化していたからではないでしょうか。そのため、消費者からの意見が反映されるであろう組織として消費者庁が受け入れられていると感じます。ただし、食品分析開発センターSANATECの記事にも書いてある通り、消費者目線を重視するということは消費者の要望や要求事項が反映されるということ。
下図の説明のように、安心と安全は分けて考えなくてはいけません。安心とは感情的な主観であり、それを科学的に証明することはできません。しかし安全性を証明する「客観的な」安全と「感情的な」安心の関係性が近くなることにより、安心を担保する規制が作られ、事業者の負担が増大する可能性が大きいということです。
さて、受け入れ側として消費者庁の新井ゆたか氏はどのように感じているでしょうか。新井氏は農林水産省とのつながりが深い官僚出身の長官です。
やはり長官自身も消費者庁が基準行政をやることについては違和感があるとはっきり言っていますね。消費者の視点とは別途の視点でやると断言しています。首相の求めるところと、かなり乖離している印象を受けるのですがいかがでしょうか。実際に行政を移管される消費者庁、今後難しい対応を迫られそうです。
しかし、消費者庁としては、消費者の意見を取り入れないでいられるとは思えません。なぜなら多くの国民は「安全」=「安心」と思っているのですから。消費者庁の基準行政が消費者目線を向くことで、より基準行政(規制)が厳しくなっていくであろうことは必定です。そうなると食品関係の製造業などは消費者の安心のための不要な検査や表示、提出書類などが増え、そこに人員も割く必要が出てきます。そうなれば見えない税として製造コストに上乗せされ、最終価格に跳ね返ってくるではないですか。安心も安全もタダではないのです。
私たちは食品行政の規制強化に反対します。
番外編:浜田参議院議員に質問してほしい!
減税と規制緩和に賛成で、国会でも政府に鋭い質問をしてくださる政治家女子48党の浜田議員に、ぜひとも国会で質問して欲しいな〜と思うことを番外編として掲載します。(^_^)